研究課題/領域番号 |
21K06684
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
武隈 洋 北海道大学, 大学病院, 准教授 (00396293)
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研究分担者 |
佐藤 夕紀 北海道大学, 薬学研究院, 講師 (00564981)
今井 俊吾 北海道大学, 薬学研究院, 助教 (40845070)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | リネゾリド / テジゾリド / TDM / 唾液 / 血小板減少症 |
研究実績の概要 |
今年度は、リネゾリド(LZD)およびテジゾリド(TZD)の血中濃度モニタリングの代替指標として唾液中濃度が利用できるかを検証するための準備として、ラットを用いて唾液中への薬物移行性を評価する系の確立に着手した。ラットをウレタン麻酔した状態で、顕微鏡下で顎下腺の口腔内開口部へカニュレーションを施した。定量に十分な唾液量を採取するために、既報(Nezu A. et al., Exp. Physiol., 104, 61-69 (2019))を参考にアセチルコリンを大腿静脈へ施したカニュレーションからシリンジポンプを用いて投与した。投与速度と唾液の分泌量を評価したところ、260 nmol/minでアセチルコリンを投与すると10分間で200μL以上唾液を採取可能であった。 並行して、母集団薬物動態から乖離する患者の要因の抽出を検証するために共同研究者が入手したリアルワールドデータ株式会社が提供する電子カルテ由来の診療情報データベースを用いた解析を行った。対象薬剤は特定薬剤治療管理料1の対象ではないため一般に血中濃度モニタリングは実施されていない。そのため、血中濃度データは格納されていないので、LZD血中濃度と発症率の相関が報告されている血小板減少症を代替指標として、血小板減少症の発症リスクを1,399症例を対象として解析した。その結果、LZDの14日以上の長期投与、体重45kg未満、eGFR 30mL/min/1.73m2がリスク因子として抽出された。特に医療ビッグデータを利用することで症例が多く確保できたので、既報では解析できなかったeGFRの層別解析が可能となり、LZDが7日未満の投与であっても、eGFR 15mL/min/1.73m2でリスクが上昇することを明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究の目的は、LZDおよびTZDの精密な血中濃度モニタリングを実施するにあたり必要な多数点採血の患者および医療従事者の負担軽減のために、唾液中モニタリング方法を確立し、血中濃度推移が母集団薬物動態から乖離する患者を抽出し、その要因を解析することである。初年度は、ラットを用いた唾液中モニタリング評価系の確立と後ろ向き観察研究による血小板減少症発症のリスク因子の抽出、および前向きの観察研究としてLZDまたはTZD投与患者の血中濃度および唾液中濃度の相関関係を分析するための患者登録を開始することを予定していた。ラットを用いた唾液中濃度の評価系の構築および後ろ向き観察研究については、順調に進めることができたが、前向きの観察研究については初年度中に患者検体の唾液モニタリングの検討を開始することができなかった。この要因は、臨床研究の倫理審査に半年以上の時間を要したためである。そのため、「やや遅れている」と評価した。
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今後の研究の推進方策 |
臨床研究計画が倫理審査委員会により承認されたので、患者のエントリーを進める。症例数を確保するために、近隣の医療機関2施設に共同研究機関に参画いただいた。また、医療ビッグデータを用いた後ろ向き解析では、LZD誘発性血小板減少症のリスク因子として、LZDの長期投与、低体重、eGFR低下が抽出された。しかしながら、我々の施設ではこれらに該当しない患者で常用量の4分の1で血小板減少症を発症させず病勢を長期に渡ってコントロールした経験がある。そのため、母集団薬物動態から乖離する患者のリスク因子の抽出を医療ビッグデータでは入手できない情報を把握できる自施設の患者を対象として、解析を進める。 唾液の評価系が確立できた動物実験では、LZDおよびTZDの血中濃度と唾液中濃度の相関性の評価、およびこれら薬物の体内動態に影響を与えると考えられる腎機能や肝機能障害病態モデルや薬物の併用時における薬物動態変動や唾液中濃度の相関が維持されるかを検証する。さらに前述の後ろ向き観察研究や前向きの血液中、唾液中モニタリングの中で見出された血中濃度変動要因候補についても動物実験での検証を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
本研究の成果の一部を当該年度3月に開催された日本薬学会 第142年回へ発表したが、オンサイト開催から急遽WEB開催となり、旅費に充填予定だった費用がかからなくなったために残額が生じた。 この未執行額は、動物実験に必要なラットや薬物の定量に必要な分析用HPLCカラム、溶媒、試薬類、チューブなどの消耗品等を購入する。また、ヒトからの唾液採取キットや採血管、検体の輸送費用へ充填する。
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