研究課題
膜輸送体Breast Cancer Resistant Protein (BCRP/ABCG2)は、肝胆管のほか、小腸管腔、血液脳関門、腎近位尿細管等の細胞膜に発現し、薬物等の基質化合物を細胞外に排出する。それぞれの臓器に発現するBCRPが基質薬物の体内動態に与える影響は不明点が多いものの、薬物の活性代謝物の主生成臓器となる肝におけるBCRPは基質薬物の体内動態の規定因子のひとつである。肝でのBCRPの輸送機能を適切に評価することは、有効かつ安全な薬物治療に求められる。本研究は、Adeno-associated virus (AAV)を用いて肝選択的なBcrpノックダウンマウスを作製し、肝BCRPを機能解明することを目的とした。マウスBcrpに対するshRNAを発現するAAV8-shBcrpを調製した。野生型マウスにAAVを静脈内投与後、組織でのBcrpのmRNA、タンパク質発現量を評価したところ、AAV8-shBcrp投与群では、対照群よりも肝Bcrp mRNA、タンパク質発現量ともに10%以下に低下した。一方、Bcrpの発現組織として小腸および腎臓では発現低下せず、肝選択的Bcrpノックダウンを確認できた。経口投与したBCRP基質薬sulfasalazineの血漿中濃度は、AAV8-shBcrpで、対照群よりも顕著に高く、AUCは7倍に増加した。AAVによる肝選択的なBcrpノックダウンで肝BCRPの機能を評価可能になり、肝BCRPがsulfasalazineの血漿中濃度を規定することが明らかになった。今後、肝と他臓器間で、各種BCRP基質化合物の体内動態におけるBCRPの関与をより定量的に比較する予定である。
2: おおむね順調に進展している
本研究で肝選択的なBcrpノックダウンマウスが作成でき、評価系の構築に成功した。次年度に予定していた組織選択的な基質探索も先行しており、今後も研究計画の達成が期待できる。
肝選択的にノックダウン時の血漿、尿、肝での濃度変化をメタボロミクスで網羅的に検出し、肝でのBCRP機能を反映した生体内BCRP基質を探索する。ヒトが摂取する植物由来成分をマウスに混餌投与して、スクリーニングの多様性を拡大し、生体内BCRP基質の検出力をさせる。メタボロミクスでのデータ解析に自動化と機械学習を導入することで、解析を効率化しつつ、構造未知イオンからも化合物同定を試みる。
すべて 2022 2021 その他
すべて 雑誌論文 (3件) (うち国際共著 2件、 査読あり 3件) 学会発表 (4件) (うち国際学会 1件) 備考 (1件)
Biochem Pharmacol
巻: 197 ページ: 114914
10.1016/j.bcp.2022.114914
Nat Cancer
巻: 10 ページ: 1039-1054
10.1038/s43018-021-00251-3
Drug Metab Dispos
巻: 49 ページ: 972-984
10.1124/dmd.121.000534
https://bunyaku.w3.kanazawa-u.ac.jp/