研究課題/領域番号 |
21K06695
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研究機関 | 東京薬科大学 |
研究代表者 |
岸本 久直 東京薬科大学, 薬学部, 助教 (80723600)
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研究分担者 |
樋口 慧 東京薬科大学, 薬学部, 助教 (10625304)
井上 勝央 東京薬科大学, 薬学部, 教授 (50315892)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | mucin型糖鎖 / 脂溶性抗がん剤 / 中分子薬 |
研究実績の概要 |
本年度は、mucin高発現細胞であるヒト結腸癌由来HT29細胞およびヒト肺上皮腺癌由来A549細胞を選択し、脂溶性薬物の細胞膜透過性に対するmucin型糖鎖の影響について検討を行った。本研究では、アミノ酸配列近傍の糖鎖合成反応を担うGCNT3および末端シアル酸付加反応を担うsialidaseに着目し、それらの阻害剤であるtalniflumate (Tal) およびbenzyl-α-GalNAc (BnGN) を選択した。被験薬物には、脂溶性の異なる抗がん剤として7種、中分子を想定した薬物として3種を選択し、これら薬物の殺細胞効果に対するTal処理の影響を評価した結果、薬物単独では約100%に維持されていた細胞生存率が、Tal併用により有意に低下した。特に高脂溶性薬物であるnilotinibの細胞生存率は約20~40%と顕著に低下した。さらに、比較的分子量が大きいvalinomycinにおいても同様の効果が認められた。一方、BnGN処理時には、殺細胞効果の変化は認められなかった。また、脂溶性色素であるrosebengalおよびpaclitaxel, nilotinibの細胞内取込みに対するTal処理 (100 µM, 24時間) の効果を検討したところ、細胞内の薬物濃度が約2倍に増大することか示され、Tal処理による脂溶性薬物の細胞膜透過性の亢進が認められた。細胞表面の糖鎖およびmucinタンパク質発現および分泌に対するTalの効果を、レクチンを用いた免疫染色およびwestern blot法により評価した結果、レクチン結合能の低下に加えて、mucinタンパク質発現の変動が認められた。これらの結果から、Talはmucin型糖鎖合成の阻害ならびにmucinの発現・分泌を低下させることで、バリア機能を低下させ、薬物の細胞膜透過性を亢進することが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究課題における研究目的の一つである「Mucin-薬物間相互作用評価」に対し、重要な結果を得ることができた。細胞表面のmucinが脂溶性薬物の細胞膜透過性に関与していることが明らかとなっただけでなく、mucinを標的とした吸収改善策の立案に繋がる重要な知見を見出すことができた。従って、本研究課題の基盤となる研究成果が得られていることより、総合的に研究計画はおおむね順調に進展していると判断できる。
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今後の研究の推進方策 |
本研究課題における研究目的の一つである「Mucin‐薬物間相互作用を評価可能なin vitroシステムの構築」に関して、申請した研究計画に従って研究を進めていく予定である。特に、MUC1やMUC13だけでなく、分子サイズの異なる膜結合型mucinおよび分泌型mucinの影響について網羅的な検討を行うだけでなく、検討する薬物物性についても考慮し、柔軟な研究計画により研究を推進していく予定である。
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