研究課題/領域番号 |
21K06704
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研究機関 | 崇城大学 |
研究代表者 |
中村 秀明 崇城大学, 薬学部, 講師 (30435151)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | ブラジキニン / HPMAポリマー / 腫瘍 / ナノメディシン |
研究実績の概要 |
本研究では、高分子性抗がん剤の腫瘍集積性・抗腫瘍効果を増強しうる、性質の異なる複数の腫瘍選択作動型ブラジキニンを創製し、担がんマウスモデルにおいてその作用を明らかにする事を目的としている。本研究期間内では、カルボニル炭素に異なる置換基を有する「カルボニル-ブラジキニン(oxo-BK)誘導体」の作製とヒドラジド基を有するHPMAポリマーへの結合を行い、各pH環境における放出性、血管透過性亢進活性、ならびに血漿ペプチダーゼに対する安定性の検討を行った。各oxo-BK誘導体はHPLCおよびMALDI-TOFMSを用いて純度および分子量を確認した。ヒドラジド基含有HPMAポリマーはRAFT重合法により調整し、ヒドラゾン結合を介してポリマーへの結合を行った。反応は定量的に進行し、サイズ排除クロマトグラフィーを用いてポリマー結合型ブラジキニンを精製した。oxo-BK誘導体のポリマーへの結合は可逆的であり、中性pHでは比較的安定に存在し、酸性条件下で効率的にポリマーからの放出が確認された。oxo-BK誘導体のポリマーからの放出速度はカルボニル炭素への置換基の種類により違いがあり、放出速度定数には数十倍の違いがみられた。またラットを用いて血管透過性亢進活性を検討したところ、各oxo-BK誘導体とも血管透過性亢進活性を有しており、HPMAポリマーへの結合により活性の消失がみられた。本結果は酸性条件下でポリマーからの放出により、その活性が回復することを示している。さらに、マウス血漿ペプチド分解酵素に対する安定性を検討したところ、HPMAポリマー結合体は非結合体と比較してペプチド分解酵素に対して耐性を示した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究期間内には異なる置換基を持つ3種類のoxo-BK誘導体を作製し、それらをpH応答性ポリマーに結合させ、放出速度の異なる3種類のpH応答性ポリマー結合型ブラジキニンを作製した。また、比較対象としてpH非応答性ポリマー結合型ブラジキニンの作製も行っている。oxo-BK誘導体の合成等に関しては支障なく遂行でき、当初目的の通りにカルボニル炭素の置換基を変えることで、活性を維持したまま、ポリマーからのoxo-BK誘導体の放出速度をコントロールすることが可能であることを明らかにした。一方、作製予定であったoxo-BK誘導体の1種類が、合成中間体の入手に時間がかかり作製できていない。本報告書作成時点において入手に目途が立っており、2022年度に作製する予定である。当初計画より遅れている点もあるが、総合的に鑑みて概ね順調に研究計画を遂行できていると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
pH応答性ポリマー結合型ブラジキニンの合成を行いつつ、担がんモデルマウスを用いた検討を行っていく予定である。2022年度の初期は、合成できていないoxo-BK誘導体の合成を行い、HPMAポリマーへの結合、各pH環境における放出性、血管透過性亢進活性、ならびに血漿ペプチダーゼに対する安定性の検討を行う予定である。2022年度中期以降は、担がんモデルマウスを用いて、リポソーム製剤の体内分布に及ぼすpH応答性ポリマー結合型BKの効果を明らかにすることで、ポリマーからの放出速度とin vivoにおけるナノメディシンの腫瘍集積増強効果にどのような関係があるかを明らかにする。またリポソーム製剤の抗がん効果にどのような影響を及ぼすのかを明らかにしていく。本年度の研究成果より、ポリマーの結合により血漿ペプチダーゼに対して安定性が高まるという結果が得られているが、放出速度が遅いoxo-BK誘導体に関しては放出し活性を示す前に、分解されている懸念があるため、ペプチダーゼ耐性を有するレトロインバーソ体のブラジキニンの合成およびoxo誘導体化も同時に進めていく予定である。また2023年度以降は薬物集積性が低く難治性がんであるすい臓がんモデルや、化学発癌モデルマウスを用いてpH応答性ポリマー結合型oxo-BKの効果を確認していく予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
感染症の流行のため学会の開催がオンライン上となり、旅費等の発生がなかったため。2022年度に繰り越した残額は、2021年度に購入できなかった合成中間体の購入費用にあてる。
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