研究課題/領域番号 |
21K06706
|
研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
柏木 仁 北海道大学, 薬学研究院, 講師 (60510609)
|
研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
|
キーワード | 血小板 / トランスポーター / 輸送活性増大 |
研究実績の概要 |
血小板は、活性化に伴い凝集すると共に様々な生理活性物質を放出し、止血のみならず生体内で多彩な作用を示す。ラットから調製した血小板を活性化させ、その上清でヒト結腸腺癌由来Caco-2細胞を刺激した結果、排出トランスポーターであるP糖タンパク(P-gp)の輸送活性が増大することが明らかとなった。また、Caco-2細胞を同様に血小板上清で刺激することにより、グルコースやアミノ酸、ペプチドの細胞内取り込み量がわずかではあるが増加する傾向が認められ、消化管において栄養を取り込むトランスポーターの輸送活性が増大する可能性が示された。活性化した血小板が間接的にトランスポーターの輸送活性を増大させることが示唆されたため、続いて、上清ではなく血小板そのものをCaco-2細胞に添加して同様に検討した。血小板単体もしくは血小板とその活性化因子を添加した際にトランスポーターの輸送活性変動はほとんど認められず、血小板によるトランスポーターの輸送活性増大の直接的作用は確認できなかった。 血小板の顆粒中に存在し、活性化により放出されることが知られているインスリン様成長因子(IGF-Ⅰ)やトランスフォーミング成長因子β(TGF-β)をCaco-2細胞に添加してグルコースやアミノ酸トランスポーターの輸送活性が変動するかを検討したところ、グルコースやアミノ酸の細胞内取り込み量が増加した。この結果は、細胞種は異なるものの既報の結果と一致した。一方、IGF-ⅠやTGF-βによるP-gpの輸送活性変動は確認できなかった。以上の結果より、血小板は活性化によりIGF-ⅠやTGF-βを放出し、グルコースやアミノ酸などの栄養取り込みのトランスポーターの輸送活性を増大させる可能性が示された。また、血小板上清による排出トランスポーターの輸送活性増大には、IGF-ⅠやTGF-β以外の因子が関与していることが示唆された。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
R3年度に予定していた「活性化血小板上清により取り込みトランスポーターの活性が変動するか」と「活性化血小板上清により排出トランスポーターの活性が変動するか」の解析については、すでに検討が終了している。今後は他の細胞種でも検討していく予定である。また、同じくR3年度の検討を予定していた「ラット肝発がんモデルから調製した血小板上清によりトランスポーターの活性が変動するか」についてはまだ解析できていない。一方、R4年度に予定していた「トランスポーターの活性変動に関与する血小板顆粒中の物質を同定」については、すでに取り掛かっている。未だ物質の同定には至っていないが、血小板上清による排出トランスポーターの輸送活性増大には、IGF-ⅠやTGF-β以外の因子が関与していることが示唆されている。トランスポーターの活性変動に関与する因子の同定に向けて、今後更なる検討を進めていく予定である。 以上より、当初の予定と多少順番は前後してしまったが、研究の進捗状況としてはおおむね順調に進展していると考えている。
|
今後の研究の推進方策 |
活性化血小板上清によるトランスポーターの輸送活性変動については、前述のように他の細胞種でも検討していく予定である。具体的には、ヒト肝癌由来のHepG2細胞やHuH-7細胞での検討を予定している。ラット肝発がんモデルの血小板を用いた検討はこれから行う予定だが、病態モデルの作製に手間取るようであれば正常と発がん状態の比較を血小板ではなく細胞で検討していくことも考えている。具体的には、ヒト肝細胞を移植したキメラマウス由来の新鮮ヒト肝細胞であるPXB細胞とHepG2細胞やHuH-7細胞とを比較する予定である。また、トランスポーターの輸送活性変動に関与する血小板顆粒中の物質を同定するための検討も引き続き行っていく。
|
次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウイルス感染症の感染拡大により、参加予定であった学会がオンライン開催となったため申請時に計上していた旅費を使用しなかった。前述のように、R4年度には当初予定していなかったPXB細胞を用いた検討を考えているため、PXB細胞を購入するための費用の一部に充てるつもりである。
|