研究課題
令和4年度の研究計画は、(1) 肝移植患者を対象としたエベロリムスの母集団解析および(2) 肺移植患者におけるタクロリムスの母集団薬物動態解析であった。令和4年度においては、下記の知見を得た。(1)母集団薬物動態解析の手法を用いて、肝移植後のエベロリムスの薬物動態解析を行った。モデル構築の結果エベロリムスのクリアランスに影響を与える因子として、eGFR、性別、フルコナゾールの併用に加え、TDMによる投与量調節の結果を反映してエベロリムスの1日投与量が抽出された。また、構築したモデルに基づき推奨投与量を算出したところ、添付文書に記載される用量の半量である0.5 mg1日2回の投与でおおむね有効血中濃度域に収まることを明らかとした。また、構築したモデルは体格を考慮することにより2歳以上の小児にも適用可能であることを示した。(2)肺移植患者におけるタクロリムスの母集団薬物動態解析を行った。京都大学医学部附属病院において2017年から2019年に肺移植が施行された患者を対象に母集団モデルの構築を行った。イトラコナゾールの併用の影響については、併用の有無をカテゴリー変数としてクリアランスの共変量として組み込んだモデルおよびイトラコナゾールの母集団モデルを構築し、タクロリムスのモデルと同時解析することで、イトラコナゾールの血中濃度に応じてタクロリムスのクリアランスが低下するモデルを検討したところ、後者の予測性が高いことを明らかとした。したがって、タクロリムスの血中濃度を安定に保つには、イトラコナゾールの血中濃度を考慮した投与設計の必要性が示唆された。
3: やや遅れている
肝移植患者におけるエベロリムスの母集団解析の学術誌への採択後、研究代表者の勤務地の異動や学位申請の準備の都合上、令和4年度実施予定であった解析への取り掛かりが遅れたため。
研究代表者の勤務地の異動のため、新規に症例を収集することが困難になったため、現在実施しているタクロリムスとイトラコナゾールの母集団解析にまず注力し、年度中の学術誌への投稿を目指す。また、エベロリムスの母集団解析の中でトフィソパムとのエベロリムスの相互作用の可能性が見出されたため、代謝実験等に基づき相互作用の生じる可能性について検証する予定である。
実験用消耗品についてはメーカーの在庫がなく購入が年度を跨ぐ形となったため差額が生じる形となった。また、コロナ禍においてオンラインでの学会参加が多く、旅費を想定よりも必要としなかった。次年度使用額については、基礎実験を行うための実験消耗品の購入費用として使用予定である。
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Clinical and Translational Science
巻: 15 ページ: 2652-2662
10.1111/cts.13389
Journal of Pharmaceutical Health Care and Sciences
巻: 8 ページ: 25
10.1186/s40780-022-00256-9