研究課題/領域番号 |
21K06717
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研究機関 | 星薬科大学 |
研究代表者 |
落合 和 星薬科大学, 薬学部, 教授 (40381008)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 切迫流・早産 / 胎児薬物動態 / リトドリン |
研究実績の概要 |
我が国では、切迫流・早産の治療薬としてリトドリン(アドレナリンβ2 受容体作動薬)が最も使用されている。しかしながら、妊娠中のリトドリンの投与により、新生児低血糖症が高頻度で起こっている。また、リトドリンには弱いβ1 受容体刺激作用もあり、母体の副作用の原因にもなっている。現在、妊婦に投与しているリトドリンは(+)と(-)体の鏡像異性体が混合したラセミ(±)体である。(-)体には、強い子宮収縮抑制作用があるが、(+)体の作用は弱い。したがって、(-)体リトドリンのみが投与可能となれば、現在の投与量の1/4未満にまで減らせ、新生児低血糖症の回避が可能になる。 そこで、令和3年度は、肝臓アドレナリンβ2受容体刺激作用の少ない(-)体リトドリンの投与量の最適化を行うために、まず、リトドリン(ラセミ体)を妊娠中期のマウスの静脈内に単回投与して、子宮収縮抑制作用および新生児低血糖症を引き起こす薬物投与量を設定した。しかしながら、リトドリンの妊娠マウスへの単回投与では、子宮収縮抑制作用はあるものの、新生児低血糖症を引き起こすことが難しく、複数回投与に切り替えて行ったところ、新生児低血糖症の症状がみられた。そこで、この方法を用いてラセミ体および(-)体のリトドリンを妊娠マウスに投与して、母体および胎児の肝臓への影響について、アドレナリンβ2受容体の下流の分子に(G6pase)の活性化について評価した。その結果、(-)体リトドリンの投与量をG6Paseの活性化を指標に決定することができた。 次に、(-)体のリトドリンを妊娠マウスに複数回投与して、その後、経時的に胎児を取り出し、胎児血液及び各臓器(脳、肝臓、小腸など)中のリトドリン及びグルコース濃度を測定した。(-)体のリトドリンの薬物動態パラメータを薬物動態解析ソフトウェアに入力し、算出し、胎児への影響の少ない投与量を決定した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
切迫流・早産の治療薬リトドリン(ラセミ体)による新生児低血糖症を発症する妊娠マウスモデルを作るのに時間を要した。本研究の肝となる(-)体リトドリンの投与量の最適化を行うためにも、まずはじめに、リトドリン(ラセミ体)を妊娠中期のマウスの静脈内に単回投与して、子宮収縮抑制作用および新生児低血糖症を引き起こす薬物投与量を設定した。しかしながら、リトドリンの妊娠マウスへのいくつかの投与量で単回投与したが、新生児低血糖症を誘発することができなかった。そこで、この研究の立案当初から妊娠マウスへの複数回のリトドリン投与も視野に入れてたことから、単回投与から、複数回投与に切り替えた。リトドリンを複数回投与した妊娠マウスから新生児低血糖症の症状がみられた。したがって、研究計画の一部に変更はあったものの大幅な遅れはなく進行している。
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今後の研究の推進方策 |
妊娠中の切迫流・早産の治療薬としてリトドリンが多用されており、我が国では、妊婦への影響と胎児および新生児への影響(新生児低血糖症)が以前から懸念されていた。本研究では新生児低血糖症の回避のための(-)体リトドリンの複数回投与時の投与量の最適化をするために、(-)体リトドリンの投与量を決定量とその倍量、高用量(ラセミ体中の(-)体リトドリン量に相当)に設定し、妊娠中期のマウスに出産前日まで複数回投与し、胎児血液中のリトドリン濃度を測定するとともに、グルコース濃度を指標に投与量を最適化する。さらに、(-)体リトドリンのリポソーム封入率の最適化と妊娠初中期での胎児動態の解析をするために(-)体リトドリンのリポソーム封入を最適化し、妊娠初中期(妊娠16週未満に相当)その胎児動態の解析を行うことで、早期投与の可能性について評価する。 最終的に、本研究では、子宮筋収縮抑制作用の強い(-)体リトドリンを妊娠マウスに投与し、その胎児動態を詳細に解析し製剤化に繋げる。現在、リトドリンは、胎児および新生児の発達障害の改善に有用であるにも関わらず、日本でのみ使用されている。(-)体リトドリンの製剤化は投与量を限界まで抑えることができる副作用の極めて少ない日本発の医薬品となりうる可能性がある。さらに、リトドリンの使用は妊娠中期以降に限定されているが、胎盤透過性の低い(-)体リトドリンのリポソーム製剤を作製し、従来顧みられなかった妊娠早期における治療の実現性についても明らかにする。
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次年度使用額が生じた理由 |
薬物の投与量を決める際に、想定よりも少ない実験動物の引数でデータが算出できたため。翌年度の研究計画では、より多くの実験動物とサンプル処理が必要となるため、そこでの使用予定に変更した。
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