研究課題/領域番号 |
21K06717
|
研究機関 | 星薬科大学 |
研究代表者 |
落合 和 星薬科大学, 薬学部, 教授 (40381008)
|
研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
|
キーワード | リトドリン / ラセミ体 / 胎児 / 新生児 / 肝臓 / 代謝 / 血糖値 |
研究実績の概要 |
(-)体リトドリンの単回投与時の母体および胎児動態の詳細解析を行うために、(-)体リトドリンを妊娠マウスの静脈内にこれまでの研究で決定した投与量で単回投与し、その後、経時的に胎児を取り出し、胎児血液及び各臓器(脳、肝臓、小腸など)中のグルコース濃度を測定し、(-)体リトドリンを投与する際の安全性の高い投与量を再度、検証した。また、リトドリンは成体の肝臓で硫酸抱合酵素Sulfotransferase1A member1 (SULT1A1)によって代謝されるが、胎児期の肝臓ではSULT1A1が発現しているかどうかは明らかになっていなかった。胎児の肝臓でSULT1A1が発現しているかを定量的PCR法により、解析したところ、mRNAレベルでは、胎児の肝臓ではほとんど発現がみられず、生後の肝臓になるとその発現増加がみられることが明らかとなった。しかしながら、胎児の肝臓切片を作成し、抗SULT1A1抗体で免疫組織化学染色によって高感度に解析したところ、胎児期の肝臓でも中心静脈周囲の肝細胞にSULT1A1の発現が強く門脈へと近づくにつれてその発現が弱まる発現濃度勾配(zonation構造)があることがわかった。成体の肝臓に比べてその発現は弱いものの、胎児期の肝臓においても特定の肝細胞にはSULT1A1の発現がみられることが明らかとなった。また、妊娠マウスに(-)体リトドリンを投与した際にどのような血糖値(グルコース濃度)が上昇するかを調べたところ、(-)体リトドリン投与量依存的に血糖値の上昇がみられたが、その増加はラセミ体投与時に比べて低いことが明らかとなった。また、本研究で用いた(-)体リトドリンの投与量の範囲で新生児低血糖症を引き起こすようなことはなく、低血糖症を回避できているものと考えられる。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
新生児低血糖症の回避のための(-)体リトドリンの複数回投与時の投与量の最適化を行うために、(-)体リトドリンの投与量をこれまでの研究で用いた投与量とその倍量、高用量(ラセミ体中の(-)体リトドリン量に相当)に設定し、妊娠中期のマウスに出産前日まで複数回投与し、新生児の血液中のグルコース濃度を測定し、投与量の最適化を行った。母体から胎児へと移行したリトドリンが肝臓で代謝できているのかを、リトドリンの代謝酵素SULT1A1に焦点をあて研究を行った。胎児期の肝臓では、SULT1A1はPCRによるmRNA解析では、発現が極めて低いことが明らかとなった。しかしながら、胎児期の肝臓の組織切片を作成し、抗SULT1A1抗体で免疫組織化学染色による解析を行う中心静脈付近に、SULT1A1が限局したzonation構造が観られた。したがって、母体から胎児へと移行したリトドリンは胎児の肝臓の代謝酵素(SULT1A1)の発現量が低いがSULT1A1のzonation構造を形成しているため、今後、詳細な検証が必要となるが、胎児の肝臓においてもリトドリンの代謝は少ないながらも起こっているものと考えられた。
|
今後の研究の推進方策 |
(-)体リトドリンのリポソーム封入率の最適化と妊娠初中期での胎児動態の解析を行うために、(-)体リトドリンのリポソーム封入を最適化し、妊娠初期(妊娠14週未満に相当)の胎児動態の解析を行うことで、早期投与の可能性について評価する。(-)体リトドリンの母体血液および胎児動態(臓器中の濃度)のデータは薬物動態ソフトウェアNappを用いて行いを比較解析し、(-)体リトドリン及びそのリポソーム製剤の低用量投与を実現する製剤開発のための科学的エビデンスを構築し、安全性を担保する。 最後に、周産期医療の難しさを認識し、「薬」本体の薬物動態学的特性を変える(リポソーム修飾など)ことによる副作用の軽減に注目している。これら医薬品の胎児中の薬物動態および影響について、妊娠中の薬物の使用はできる限り避けるべきでだが、現実には薬物治療を避けられない場合も少なくない。例えば、抗てんかん薬や抗喘息薬は妊娠中であっても、妊娠初期からの医薬品の投与が行われているのが現状である。申請者はこれらの医薬品についても胎児中の薬物動態を研究し、安全性の高い薬物治療法への情報提供に繋げたいと考える。
|
次年度使用額が生じた理由 |
試薬の価格の改定により、購入品目にわずかにずれが生じたため
|