研究課題
本年度は、疾患横断的病的CNVの中で見出された遺伝子変異マウスおよび周産期や幼若期に免疫を活性化させたモデルマウスの行動試験系を深化させ、遺伝子変異マウスの周産期や幼若期に免疫を活性化させ、行動異常が顕在化あるいは重篤化するかどうか検討した。また、幼若期に社会的敗北ストレスを負荷したマウスにおける網羅的・特異的発現解析と神経化学的解析を行った。①疾患横断的病的CNVの中で見出されたアストロタクチン2(ASTN2)を欠失させたAstn2遺伝子欠失マウスの行動学的解析を行った結果、新規環境下自発運動活性、常同行動、衝動性の亢進、あるいは不安様行動の減弱が認められた。一方、野生型マウスの周産期にポリイノシン:ポリシチジル酸(polyI:C)やプロスタグランジンE2(PGE2)によって免疫を活性化させると、若年期(生後28日齢)でなく、成体期(生後56日齢)において社会性や認知機能の低下が認められた。幼若期に社会的敗北ストレスを負荷したマウスでは社会性行動障害が認められた。②幼若期に社会的敗北ストレスを負荷したマウスの網羅的遺伝子発現解析を行ったところ、非ストレス負荷マウスと比較して有意に2倍以上変化していたのは102個あった。これらの遺伝子をgene ontology(GO)およびpathway解析した結果、免疫系や炎症反応に関連する遺伝子を見出した。また、炎症性メディエーターのTNF-αの発現量が脳で増加していた。
2: おおむね順調に進展している
本年度はターゲット遺伝子としてのASTN2の変異マウスを用いた研究は進展しているが、22q11.2関連遺伝子のマウス飼育状況が進んでいない。精神疾患モデルマウスの網羅的・特異的発現解析と神経化学的解析も着手しており、免疫応答系と神経伝達系に関するタンパク質やmRNAの発現パターンは一部検討中である。したがって、研究計画の達成度は概ね順調に進展していると判断した。
1.22q11.2関連遺伝子の飼育状況が進んでいないため、細胞間接着を媒介するカドヘリンスーパーファミリーのひとつであるプロトカドヘリン15(PCDH15)遺伝子の欠失が複数の双極性障害患者において見出されている。そこで、PCDH15欠失マウスでの検討を進め、遺伝子欠失マウスの周産期に免疫を活性化させ、行動異常の悪化が認められるかどうか検討する。2. 精神疾患モデルマウスの網羅的・特異的発現解析と神経化学的解析として、神経細胞・グリア細胞に関連する分子の形態、局在、密度、細胞数や突起長などを解析する。免疫応答系と神経伝達系に関するタンパク質やmRNAの発現パターンを調べ、治療や診断マーカの戦略となる共通因子の探索を進める。
遺伝子変異マウスの繁殖・維持などに繰り越した助成金を一部にあてる。
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すべて 雑誌論文 (3件) (うち査読あり 3件) 学会発表 (6件)
Neurochemistry International
巻: 150 ページ: 105177
10.1016/j.neuint.2021.105177
Behavioural Brain Research
巻: 408 ページ: 113284
10.1016/j.bbr.2021.113284
Neuroscience Research
巻: 171 ページ: 83-91
10.1016/j.neures.2021.01.002