研究課題/領域番号 |
21K06720
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研究機関 | 京都薬科大学 |
研究代表者 |
河渕 真治 京都薬科大学, 薬学部, 助教 (70747237)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 薬物動態-薬力学的(PK-PD)モデル解析 / 薬物動態-毒性学的(PK-TD)モデル解析 / 制吐療法 / 血液毒性 / 数理モデル解析 |
研究実績の概要 |
本研究では、抗がん剤と制吐剤の体内動態に着目し、制吐療法の個別化を目指した悪心・嘔吐リスク予測システムの開発に向けて研究を行っている。本年度は、消化器がん化学療法施行時の各薬物のPKモデルと毒性(TD)との関連性を記述可能なPK-TDモデルの構築について検討した。5-フルオロウラシル(5-FU)ならびにオキサリプラチン(L-OHP)をそれぞれ、臨床に準拠した用量でラットに投与後、催吐反応と関連するパイカ行動(異味症)を指標としてカオリン摂取量をモニタリングしたところ、重篤な悪心・嘔吐の発現を確認できなかった。そこで、抗がん剤の血液毒性に着目し、毒性の代替指標として血球数を用いて抗がん剤暴露量と毒性発現との関連性を記述できるPK-TDモデルの構築を試みた。5-FU、L-OHPに加えてイリノテカンを併用したFOLFIRINOX療法時の薬物血中濃度、白血球、好中球、リンパ球の各血球数データを用いて、PK-TDモデリングを行ったところ、各薬物血中濃度の積に補正係数を組み合わせた関数を導入することによって、複数の抗がん剤を併用した場合の薬物暴露量と毒性との関連性を記述可能であった。また、このモデルに腫瘍中薬物濃度と腫瘍増殖抑制(PD)を記述したPK-PDモデルとを組み入れることで、フッ化ピリミジン系抗がん剤投与後の毒性の程度と抗腫瘍効果とを同時に推定でき得ることが示された。これらの結果から、PK-TDモデルとPK-PDモデルとを組み合わせることで、抗がん剤を併用した後の薬物血中濃度、治療効果および毒性の程度の時間的推移を同時推定することが可能であると示唆された。これらのモデル構築で得られた知見は、複数の薬物血中濃度をTDモデルに組み込む点が共通していることから、非血液毒性である悪心・嘔吐リスク予測システム構築にも応用可能であると考えられた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
当初、悪心・嘔吐の重篤度の評価には、カオリン摂取量を用いたパイカ行動を指標として研究を進めてきたが、安定した行動薬理データの取得に至っていないことから、制吐剤のPK-PDモデル構築に時間を要している。しかしながら、このことについては想定の範囲内であり、現在、抗がん剤の各薬物投与量と毒性発現との関連性について検討を進めている。また、ラットから得られる微量サンプルからの抗がん剤と制吐剤の薬物濃度測定について、7種類以上の化合物を同時定量する必要があることから測定法の開発にも時間を要している。
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今後の研究の推進方策 |
抗がん剤投与後の悪心・嘔吐作用の代替評価項目として、当初から計画に入れていた通常飼料の摂取量や体重、脳または消化管中セロトニン、ドパミン、サブスタンスP量などのバイオマーカーの測定を行う予定である。また、制吐剤と抗がん剤の投与後、ラットから得られる微量血液試料中の薬物濃度測定について、質量分析計を用いた新規同時定量法の構築を進める。制吐剤のPKおよびPDデータを採取し、PK-PDモデリングを進め、抗がん剤のPK-TDモデルと組み合わせることで、悪心・嘔吐予測システム構築を目指す。
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次年度使用額が生じた理由 |
抗がん剤投与後の催吐評価法の確立に時間を要していることから、実験動物の使用数と疑似餌などの消耗品が当初計画していた数よりも少なかった。代わりに、これまでに得た抗がん剤のPK-TDモデルに関する成果について、学会での演題発表や原著英論文発表に伴う費用に充てたが、わずかに次年度使用額が生じた。次年度使用額については、バイオマーカー測定に必要な試薬の購入費用に充てる予定である。また、制吐剤のPK、PD評価に必要な動物購入費にも用いる予定である。
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