本研究では、抗がん剤の体内動態と薬効/毒性との関係を明らかにし、数理学的モデル解析技術を活用した悪心・嘔吐リスク予測システムの開発に取り組む。最終年度では、昨年度に課題として残された行動薬理データを取得するとともに、基礎研究成果を臨床に展開するための数理学的モデル解析手法について検討した。 まず、5-フルオロウラシルならびにオキサリプラチンを臨床に準拠した用量でラットに投与後、悪心・嘔吐の重篤度をパイカ行動の代替評価項目である飼料摂取量や体重で評価したところ、これらについても重篤な悪心・嘔吐の発現を確認できなかった。そこで、副作用発現リスク予測システム構築に数理学的モデルが活用できるか否かを検討する目的で、昨年度構築した抗がん剤の血液毒性に関するPK-TDモデルを用いて、ヒトでの副作用発現を予測するトランスレーショナルアプローチを検討した。その結果、抗がん剤の薬物動態(PK)モデルについて、ラットでの体内動態を記述するモデルパラメータから臨床試験にて得られたヒトでのモデルパラメータに置換するハイブリッドPK-TDモデルアプローチを活用することで、抗がん剤投与後の各血球数の経時的推移を予測することに成功した。また、本アプローチを用いてゲムシタビン+ナブパクリタキセル療法施行後の全奏効率を予測したところ75.1%と推定され、2023年に報告されたPhaseⅡ試験の結果(42.1%)と比較すると、この推定値は過大評価であったが、治療効果と毒性発現リスクを同時に推定することが可能であった。このとこから、ハイブリッドPK-TDモデルアプローチは、基礎研究結果からより良い投与設計法を構築するための有用なツールとなり得ると考えられた。この数理モデルでは、薬物血中濃度と毒性強度との関連性を記述していることから、悪心・嘔吐リスク予測システム構築にも適用できる可能性が示唆された。
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