研究課題
黄体は妊娠の成立と維持に必須なプロゲステロンを産生する内分泌組織で、排卵後の卵胞壁細胞より形成される。妊娠が成立しない場合、ヒトでは、黄体は1週間ほど機能したのち、自発的に退行する。一方、妊娠が成立すると、胎盤より産生されるヒト絨毛性ゴナドトロピン(hCG)の作用により、黄体は退行を免れ妊娠黄体となって妊娠初期の数か月間機能を維持する。マウスやウシなどの動物では、子宮由来の因子が黄体の退行を誘導するが、ヒトでは子宮由来の因子は卵巣周期に影響を与えない。ヒトでは、黄体内で産生される因子が自発的に黄体の退行を制御すると考えられるがそのメカニズムは不明な点が多く残されている。我々は、ヒト黄体では、beta-galactosideを認識するガレクチンのうち、galectin-1が機能黄体に、galectin-3が退行黄体に発現しており、ガレクチンと糖鎖との相互作用が機能制御に重要な役割を果たすことを報告してきた。ガレクチンと糖鎖との結合を阻害するalpha2,6シアル酸修飾は退行黄体で増加することから、ヒト黄体の機能制御に重要な役割を果たすと考えられるが、alpha2,6シアル酸修飾された糖鎖をもつタンパク質やその機能の詳細は明らかでない。本研究では、ヒト黄体細胞において、退行時にalpha2,6シアル酸修飾をうける糖タンパク質を同定し、その機能を明らかにするとともに、質量分析イメージング装置を用いた切片上で糖鎖を検出できる技術の確立を目指し、黄体の機能制御に重要な糖鎖を探索することを目的とする。
3: やや遅れている
初年度はalpha2,6シアル酸修飾された糖鎖をもつ糖タンパク質の同定を計画していた。材料となるヒト培養黄体細胞(LGCs)は、体外授精治療のために採卵された卵胞液より分離するため、患者数に影響をうけること、また、LGCsは初代培養細胞であり、分裂・増殖しないことから、タンパク質解析に必要な細胞数を確保することが難しかった。現在サンプル数を増やして解析に必要な細胞数の確保に努めている。また、質量分析イメージング解析のための基盤の情報となる、ラットおよびマウスの黄体組織を用いた糖鎖構造解析を実施した。ラットのN-glycanに関しては糖鎖構造解析が順調に進行しているが、マウス黄体組織は小さく、卵巣全体を用いた解析など別の方法を検討しているところである。
初代培養LGCsを用いた解析は、解析に充分な量の細胞数を得ることが困難であることが予想されるため、黄体機能維持に重要な受容体(LHCGRやEP2)などにターゲットを絞り、糖鎖構造の変化を解析できればと考えている。また、株化黄体細胞の樹立やLHCGRやEP2を強制発現させた細胞株を用いることも視野に入れている。
臨床研究の継続申請手続きに時間を有しており、今年度は新規に共同研究者の工藤より卵胞液の提供をうけて実施する実験を行うことができなかった。そのため、工藤に配分した研究費は次年度に繰り越しして使用したいと考えている。
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