研究実績の概要 |
ヒト脳の白質線維は、連合線維(同側を結合)、交連線維(両半球を結合)、投射線維(脳幹・脊髄などへ投射)に3分類され、認知機能の神経基盤となる。近年、ヒト脳の連合線維は同定がほぼ終了したと考えられていた。申請者はヒト脳の白質解剖を施行し、新規の連合線維束「IPS-FG」を同定し論文発表した。「IPS-FG」は他の霊長類には認めずヒト特有の連合線維束である。 本研究の目的は、申請者が報告した新規の連合線維束「IPS-FG」の構造と機能を解明することである。これまでの研究結果により「IPS-FG」は、頭頂間溝(IPS,intraparietal sulcus)と側頭葉の紡錘状回(FG,Fusiform gyrus)を結合することを明らかにした。頭頂間溝(IPS)は、感覚野と運動野の中継地に位置し「感覚-運動変換」のハブとして知られる。一方、紡錘状回(FG)は高次の視覚野である。従って「IPS-FG」は、物体を見ながら把握(grasp)するなどの視覚誘導性動作へ関与すると推察される。 今年度は「IPS-FG」の構造と機能を統合的に解析しそれが担う視覚誘導性動作の神経基盤の解明を目指した。その結果、「IPS-FG」は頭頂間溝(IPS)のIP1領域から、紡錘状回(FG)の文字や顔貌を認識する高次視覚領域(PHA2,TF)を結ぶことを示した。また、運動連想のタスク負荷 機能的MRI解析を施行し、運動連想時にはIPSとFGの領域間に機能的結合性(Functional connectivity)を認めたことから「IPS-FG」が感覚-運動変換に寄与する可能性が示唆された。本研究の成果は、モノを掴む動作などの基本原理や脳損傷患者の高次脳機能障害の解明、BMI(Brain-Machine Interface)への応用が期待される。
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