日本を含む先進国の約15%のカップルが不妊と推計され、その原因の半数は男性側にある。男性側の主な原因は精子が作られる過程(精子形成)の障害であるが、原因が解明されたものは少ない。精子の通り道(精路)の研究の発展には詳細な形態学的情報が不可欠であるが、その詳細な形態や器官形成メカニズムの多くは不明である。本研究の目的は、「精路はどのような三次元構造をしていて、どのように作られるのか」を明らかにすることである。実験動物としてマウス・ラットの胎児期精路の詳細を明らかにした。各発生段階のマウス・ラットから摘出した泌尿生殖器系の5μm連続切片を作製し、精路の三次元再構築を行なった。精巣索の本数はマウス・ラットでそれぞれ12.7本・27.8本であった。精巣索1本あたり分岐数がマウス・ラットでそれぞれ1.52箇所・0.30箇所であった。白膜に接しない管の割合がマウス・ラットでそれぞれ6.5%・23.0%であった。マウス・ラットともに、精巣索は頭部側でコイリングが強く、尾部側でコイリングが弱かった。また、ヒト精路の三次元構造を明らかにするため、進行性前立腺癌で外科的去勢術にて摘出された試料の5μm連続切片を作製した。深層学習によるセグメンテーションと高性能三次元再構築ソフトウェアを用いて、連続パラフィン切片からヒト精巣輸出管と精巣上体頭部の三次元再構築を行なった。精巣外精巣網と精巣上体管の両方に接続する管を1本の精巣輸出管と定義すると、平均14.7本であり、その全長は3.0 mであった。頭部側の精巣輸出管は1本に合流して精巣上体管に結合していたが、残りの精巣輸出管は個々に精巣上体管に結合していた。上記の結合パターンの違いにより上皮のスイッチパターンも異なっていた。精巣上体管は結合組織性中隔の有無にかかわらず、構造的にセグメント化されていた。現在、ヒト精細管の三次元再構築を行なっている。
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