研究課題/領域番号 |
21K06737
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研究機関 | 熊本大学 |
研究代表者 |
若山 友彦 熊本大学, 大学院生命科学研究部(医), 教授 (70305100)
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研究分担者 |
玉井 郁巳 金沢大学, 薬学系, 教授 (20155237)
菅原 太一 熊本大学, 大学院先導機構, 助教 (30758412)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | ダウン症候群 / 精巣 / 精子形成障害 / 男性不妊症 / トリソミー / 原因遺伝子 |
研究実績の概要 |
ヒトのダウン症候群は、ヒト21番染色体が3本(トリソミー)になることが原因の染色体異常で、600~800人の出生に1人の割合で生じ、最も高頻度な遺伝病の1つである。晩婚化の影響もあり、高齢出産によりダウン症候群の児の出生率も増加傾向にある。ダウン症候群は、多様な臨床症状を示し、先天性心疾患、神経疾患、白血病、甲状腺疾患のほか、精子形成障害による男性不妊症を生じる。しかし、ダウン症候群で生じる精子形成障害の原因遺伝子は不明である。 ヒトの21番染色体上の遺伝子群の大半は、マウスでは16番染色体に分配され、残りが10番と17番染色体に含まれる。本研究で用いたTs65Dnマウスは、ヒト21番染色体に相当する16番染色体の部分が17番染色体に転座してトリソミー状態になるのでダウン症候群モデルとして用いられる。このTs65Dnマウスの精巣では、精子形成障害が生じて雄は不妊症を示す。したがって、ダウン症候群で生じる精子形成障害の原因遺伝子の探索をTs65Dnマウスの精巣を用いて行った。 Ts65Dnマウスのトリソミー状態になっている65個の遺伝子について、RT-PCR法により発現増加が見られる遺伝子を探索した。その結果、10個の遺伝子(App、Atp5o、Cbr1、Cbr3、Chaf1b、Ifnar2、Ifngr2、Jam2、Mrap、Pigp)が対照のマウスの精巣よりも遺伝子の有意な増加が見られた。さらに、定量的RT-PCR法により、その発現量を定量すると約4倍から12倍の増加が確認された。これら10個の遺伝子については、精巣での発現が報告されている遺伝子もあるが、詳細な機能解析については行われていない遺伝子が多かった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ヒトのダウン症候群のモデルであるTs65Dnマウスの精巣でも精子形成障害が生じることが分かった。このマウスでは65個の遺伝子がトリソミー状態になっており、精子形成障害の原因遺伝子が65個の遺伝子の中になることが推測された。Ts65Dnマウスの精巣において、これまで詳細な解析が行われていないため、実際に65個の遺伝子発現の変化について解析を行った。その結果、遺伝子発現がコントロールに対して優位に増加している10個の遺伝子を同定することができた。精子形成障害がモザイク状に生じていることから複数の遺伝子が精子形成障害に関与していることが予想されたので、この結果は仮説に一致している。これらの遺伝子の中でタンパク質レベルでの発現と機能解析を行うことでさらに精子形成障害の原因となる遺伝子を絞り込んでいく計画であり、研究計画は順調に進行していると考える。
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今後の研究の推進方策 |
ダウン症候群モデルのTs65Dnマウスの精巣において、トリソミー状態にある65個の遺伝子の中で、10個の遺伝子(App、Atp5o、Cbr1、Cbr3、Chaf1b、Ifnar2、Ifngr2、Jam2、Mrap、Pigp)のmRNAの発現量が対照マウスの精巣よりも有意に発現が増加していた。そこで、これらの遺伝子についてタンパク質レベルでの発現について検討する。そのため、これらの10種類の分子に対して抗体を作製する。各分子の抗原タンパク質としてC末のアミノ酸とGSTの融合タンパク質を作製する。可溶性タンパク質が得られない場合は、Hisタグを付加した抗原タンパク質を作製する。得られた抗原タンパク質を用いて、ラットを免疫する。追加免疫を行い十分な抗体価が確認できたら、全採血をして血清を得る。得られた抗体を用いて、ウェスタンブロット法により、タンパク質レベルの発現量の増加を解析する。また、免疫組織化学により、各タンパク質を発現する細胞の同定と、Ts65Dnマウスの精巣での発現の変化について明らかにする。細胞内同定が必要な場合は、細胞内小器官等のマーカー抗体との2重染色を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
千円未満の端数がでているが、予定通り研究計画は進行している。残った予算は次年度の予算として研究計画上で有効に使用する予定である。
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