研究課題
ヒトのダウン症候群は、21番染色体が3本のトリソミー状態になることが原因で生じる染色体異常である。600~800人の出生に1人の割合で生じる最も高頻度な遺伝病の1つとして知られる。ダウン症候群は、精子形成障害を生じるが、そのメカニズムや責任遺伝子は分かっていない。ヒトの21番染色体上の遺伝子群の大半は、マウスの16番染色体に分配され、残りが10番と17番染色体にある。Ts65Dnマウスは、ヒト21番染色体に相当する16番染色体の部位が17番染色体に転座してトリソミー状態になる。このTs65Dnマウスの精巣では、精子形成障害が生じる。したがって、本研究では、精子形成障害の責任遺伝子の探索にTs65Dnマウスを用いた。Ts65Dnマウスのトリソミー状態になっている65個の遺伝子について、発現が増加する遺伝子を探索する目的で定量的RT-PCR法を行った。その結果、10個の遺伝子(App、Atp5o、Cbr1、Cbr3、Chaf1b、Ifnar2、Ifngr2、Jam2、Mrap、Pigp)が対照のマウスの精巣よりも遺伝子の発現が有意に増加した。さらに、市販と自作の抗体を用いて、タンパク質レベルの発現の増加と発現細胞を同定した。Appは、造精細胞に発現するが、脱落や変性した造精細胞に過剰な発現が認められた。また、Cbr1とCbr3は、セルトリ細胞に発現し、精子形成障害が見られる精細管ではセルトリ細胞に過剰にかつ不均一に両タンパク質が発現していた。したがって、Cbr1とCbr3の過剰発現がセルトリ細胞の機能障害を生じ、精子形成障害を引き起こすことが示唆された。さらに、造精細胞に過剰に発現するAppが精子形成障害を促進することも示唆された。ダウン症候群における精子形成障害は、少なくともApp、Cbr1、Cbr3の複数の遺伝子の過剰発現によって生じることが示唆された。
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Journal of Histochemistry and Cytochemistry
巻: 71 ページ: 387~408
10.1369/00221554231185626