研究課題
本年度はまず、研究計画書に記したこれまでの未発表データに追加実験を加えて論文としてまとめ、査読付雑誌に投稿した。その結果、論文は受理され、1) 内分泌顆粒を有さない肺大細胞肺癌株H1299に対して、REST遺伝子の抑制とPROX1遺伝子およびPOMC遺伝子の強制発現により内分泌顆粒の新生が誘導されること、2) 新生された内分泌顆粒には顆粒内容物質として強制発現させたPOMC遺伝子産物 (ACTHペプチドタンパク) が局在することが示された (Ishii J, et al. J Mol Histol. 2022;10.)。この論文により、本研究課題の実現可能性が支持されたと考えられる。次に、PROX1に代わる内分泌顆粒形成の誘導因子を明らかにするため、研究計画書にて候補として挙げたINSM1遺伝子およびMYT1L遺伝子を発現するウイルスベクターを構築した。また、POMC遺伝子産物以外の顆粒内容物によっても内分泌顆粒が誘導されるか明らかにするため、CALCA遺伝子variant 1 (カルシトニンをコードする) および IGF2遺伝子 (インスリン様成長因子2をコードする) を発現するウイルスベクターを構築した。これらベクターは、COS-7あるいはHEK-293細胞への一過性導入実験から、発現ベクターとして正常に機能することを確認した。現在、これらベクターを種々の培養細胞株 (内分泌顆粒を有さない細胞株であるA549, H358, HeLaなど) に導入し、安定発現株の樹立を試みている。
2: おおむね順調に進展している
これまでのデータを論文として一旦まとめたことで、本研究課題の基礎が固まったと考えられる。本年度に構築した各種遺伝子発現ベクターは、培養細胞への一過性発現とウエスタンブロット実験から、発現ベクターとして機能することを確認している。また本研究では、培養細胞に対する各種遺伝子の強制発現に加えて、REST遺伝子のノックアウトを組み合わせる必要がある。こうしたREST遺伝子をノックアウトした細胞株の樹立を並行して進めており、いくつかの細胞においてはREST遺伝子のノックアウトが確認された。以上より、研究は概ね順調に進んでいると考えられる。
内分泌顆粒を持たないH1299以外の細胞株 (ヒト肺腺癌細胞A549およびH358、ヒト子宮頸癌細胞HeLaなど) をベースに、INSM1あるいはMYT1Lを恒常的に発現する細胞を樹立する。またその際、REST遺伝子のノックアウトやPOMC遺伝子の強制発現を組み合わせる。また、既に内分泌顆粒形成の誘導が確認されている細胞である、「RESTノックアウトに加えてPROX1およびPOMCを強制発現させたH1299細胞」に対して、POMCの代わりにCALCA遺伝子あるいはIGF2遺伝子を導入した細胞株を樹立する。こうして樹立した細胞株における内分泌顆粒関連遺伝子の発現状態をReal time PCRにて解析する。また、内分泌顆粒形成の有無を超微形態学的解析により確認する。
次年度使用が生じた理由は、メーカーのキャンペーンにより消耗品にかかる費用が抑えられたためである。使用計画は次の通りである。各種遺伝子を導入した細胞から種々のサンプル (RNAやタンパク質, 電子顕微鏡用試料など) を調整し、Real time PCR解析やウエスタンブロット解析、免疫組織化学、超微形態学的解析などを行うため、それぞれに関する消耗品および試薬が必要となる。具体的には以下の目的で使用する。1. 細胞培養用培地・血清・消耗器具の購入, 2. 培養細胞からのサンプル調整に必要な消耗品の購入 (RNA抽出用試薬、タンパク濃度測定試薬など), 3. cDNA合成、遺伝子発現解析用試薬等の購入 (逆転写酵素、Real time PCR用試薬など), 4. 免疫組織化学および超微形態学的解析に用いる消耗品および抗体の購入 5. 遠方での学会発表にかかる交通費
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Journal of molecular histology
巻: 10 ページ: -
10.1007/s10735-021-10055-5