研究課題/領域番号 |
21K06743
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研究機関 | 日本大学 |
研究代表者 |
原田 智紀 日本大学, 医学部, 准教授 (00424721)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 骨髄 / ストローマ細胞 / 老化促進マウス / 加齢 / 造血微小環境 / マクロファージ |
研究実績の概要 |
造血は、分化・増殖可能な造血幹細胞とそれを取り巻く造血微小環境により制御されている。造血微小環境においては、ストローマ細胞と称される間葉系細胞を中心にして造血制御が行われ、分化・増殖を促進する、いわば「正」の方向だけでなく、分化・増殖を敢えて抑制する、「負」の方向に働くこともある。本研究はストローマ細胞による「負」の造血制御機構の解明、とりわけ赤血球造血における「負」の造血制御である無効造血の解明を目的としている。研究初年度はストローマ細胞に機能障害を有することが加齢に伴い顕在化する老化促進モデルマウス(senescence-accelerated mice:SAM)の骨髄における造血制御機構について解析を行った。SAMでは正常マウスでは老化兆候を示さない30週齢で加齢マウスとなり、正常マウスよりも若い週齢において加齢モデルとなることが特徴である。このSAMの若齢マウスと加齢マウスに、炎症性物質であるリポポリサッカライド(Lipopolysaccharide:LPS)を投与すると、正常マウスと異なり若齢マウスでも骨髄の造血機能が障害され、加齢マウスでは造血前駆細胞の低下が若齢マウスよりもさらに遷延し、より強く造血機能障害を受けることが明らかとなった。加齢マウスでは、ストローマ細胞からの造血制御のための液性因子の産生が若齢マウスより低下し、骨髄ストローマ細胞の一種であるマクロファージの亜群解析では炎症促進的な亜群が経日的に増加し、若齢マウスにおいて炎症抑制的な亜群が後に増えて定常状態へと回復していったことと対照的な結果が得られた。加齢SAMでは、造血制御機構の反応が若齢SAMよりも弱いと同時に、マクロファージの存在様式が一方向に振れた後に回復方向となる逆方向に復すことが困難であることが明らかとなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の実験計画とやや異なるが、研究は順調に進展している。令和3年度はin vivoにおけるストローマ細胞による造血制御機構の解析を老化促進モデルマウス(senescence-accelerated mice:SAM)を用いて行った。特に種々の細胞から成るストローマ細胞の1種である骨髄マクロファージに焦点を当て、その亜群の分布様式の解析を行った。この解析はSAMに炎症性物質であるリポポリサッカライド(Lipopolysaccharide:LPS)を投与した状態で行ったが、さらに生体内のマクロファージを一時的にではあるが枯渇させるクロドロン酸を投与した解析にも着手し、造血制御機構におけるマクロファージの役割を検討中である。また、加齢SAMの骨髄細胞が正常マウスと比較して若い週齢にも関わらず老化していることを、老化マーカーだけでなく細胞増殖のマーカーも組み合わせた免疫染色にて確認しており、SAMのストローマ細胞機能低下の要因についても検討を進めている。
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今後の研究の推進方策 |
令和4年度はin vivoおよびin vitroでの造血制御におけるストローマ細胞の役割、特にマクロファージによる造血制御機構の詳細を検討する。老化促進モデルマウス(senescence-accelerated mice:SAM)へのリポポリサッカライド(Lipopolysaccharide:LPS)および、マクロファージを一時的に枯渇させるクロドロン酸を投与し、令和3年度に引き続いて骨髄マクロファージが果たしているストローマ細胞機能の解析を行う。また、加齢SAMは貧血を呈し、また若齢か加齢かに関わらずLPS投与SAMが貧血を呈するため、クロドロン酸投与時の赤血球造血の解析も進める。さらに低酸素環境飼育を行い、赤血球造血がよりダイナミックに制御される環境下での造血制御機構の解析も進め、赤血球造血における「負」の造血制御機構を解析する。加えて、SAM骨髄より各種ストローマ細胞を分離、純化して培養を行い、赤血球系幹細胞と各種ストローマ細胞との三次元in vitro培養法にてストローマ細胞機能を検討する。なお令和3年度研究より基礎的実験成果は得られており、令和4、5年度の実験に向けて順調に研究は進行している。
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次年度使用額が生じた理由 |
令和3年度にリポポリサッカライド(Lipopolysaccharide:LPS)を投与した老化促進モデルマウス(senescence-accelerated mice:SAM)骨髄の造血制御機構について、学術論文としてまとめ、オープンジャーナルとして出版することができた。年度開始時には予定していなかった英文校正料や論文投稿料が生じ、前倒し支払い請求を行った。また、令和3年度から令和4年度にかけて、実験動物の飼育料が月末になるまで確定されないこと、および、各種物品の値上がりが予想されていたため、値上がり前の発注を可能とするために年度末から年度開始直後に使用可能な予算の確保が必要となり、次年度使用額が生じる状況となった。次年度研究費は年度末に購入を控えた酸素センサー、クロドロン酸等の購入に充てる予定である。
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