前年にひき続き頸神経の特徴を探るため、ニワトリ中頸部に過剰肢を作成し、それに対する頸神経の振る舞いについて観察を行った。その結果、上頸部神経管は中頸部の神経管と同様な性質を持ち、中頸部に移植しても過剰肢へ神経を伸ばさなかった。一方で、上頸部体節は中頸部の体節とは異なる性質を持ち、中頸部に移植しても、中頸部神経管から過剰肢へ伸びる神経の伸長を阻害しなかった。以上から中頸部の体節だけが全頸部の神経管に由来する神経の伸長を特異的に阻害するようである。また過剰肢に伸びた頸神経の構成を調べるため、逆行性に標識してその発現分子を調べたところ、運動ニューロンと感覚ニューロンが含まれていた。特に、運動ニューロンはその多くが背根から出るdorsal motor neuronであったが、わずかながら腹根から出るspinal motor neuronもあった。ここで中頸部の頸神経は椎前筋と僧帽筋を支配するが、その僧帽筋枝はdorsal motor neuronであるとされてきた。そこで、僧帽筋枝の構成を調べたところ、多くのdorsal motor neuronに混じって、わずかながらspinal motor neuronが見つかった。よって僧帽筋は鰓弓神経であるdorsal motor neuronと脊髄運動神経であるspinal motor neuronの二重支配筋であることが分かった。
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