研究実績の概要 |
統合失調症の病態に関する「修正ドーパミン仮説」は、陽性症状(線条体のドーパミン過活動)と陰性症状や認知障害(前頭前皮質の低活動)の両方を説明できるのが特徴であるが、前頭前皮質と線条体の病理の因果関係は不明である。統合失調症患者の死後脳においてN ethylmaleimide-sensitive fusion protein(NSF)発現が低下する報告から、我々は独自に「統合失調症ではドーパミンD1受容体(D1R)の膜局在化に異変が起きているために諸症状が現れる」との仮説をたて、仮説の検証のためにD1Rを発現する神経細胞に特異的なNSFコンディショナルノックアウトマウス(D1R-NSFcKO)を開発して、このマウスが新たな統合失調症モデル動物になる可能性を見出した。今年度はD1R-NSFcKOマウスと比較するためにD2R-NSFcKOマウスでの研究を進めた。Western Blotおよび免疫染色法によりD2R,dopamine transporter (DAT) 、Tyrosine hydroxylase (TH)およびDARPP-32の発現変化を検討した。D1R-NSFcKOマウスでは線条体でのD2R ・DAT・TH・DARPP-32の発現変化が見られなかったが、D2R-NSFcKOマウスでは有意に低下が見られた。脳内ドーパミン神経系においてNSFとD2Rが結合することで神経細胞を保護し、抗アポトーシス効果があることが報告されている(Bozzi et al, Trends Neurosci 2006)。免疫染色によりD2R-NSFcKOマウスでは線条体でのSSDNAの陽性細胞数がコントロールマウスに比べ、多かったことを見出したことから、今回のD2Rを発現する神経細胞特異的にNSFの発現を抑えたD2R-NSFcKOマウスを作出した結果、このモデルではドーパミン神経細胞が減る可能性があると考えられる。
|