研究課題/領域番号 |
21K06757
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研究機関 | 大阪市立大学 |
研究代表者 |
池田 一雄 大阪市立大学, 大学院医学研究科, 教授 (80275247)
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研究分担者 |
松原 勤 大阪市立大学, 大学院医学研究科, 准教授 (20628698)
宇留島 隼人 大阪市立大学, 大学院医学研究科, 講師 (90755745)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 肝星細胞 / 肝線維化 / E- cad |
研究実績の概要 |
肝星細胞(伊東細胞)は、様々な肝病態下で活性化を受け、細胞外基質を過剰に産生し、肝機能障害を引き起こすことで、肝線維化、肝硬変、肝がんの誘因となる。そのため肝星細胞活性化を制御することは臨床的にも重大な課題であると考えられる。肝星細胞の活性化は、肝細胞との接着が消失することが引き金となるようであるが、その詳細は未だ明らかにされていない。 これまで、我々は、肝臓の線維化過程に中心的な役割を果たすと考えられている肝星細胞の機能、特に活性化の分子機構のメカニズム解明のため、肝星細胞分離法を確立し、この分離培養星細胞を用いて肝星細胞活性化に伴って変動する各種分子動態を遺伝子レベルおよび蛋白質レベルでの解析を行ってきた 。 2015年より、炎症や発がんとの関連で注目を集めている肝星細胞の細胞老化に関連する研究等を進め、肝星細胞の細胞老化に関するシグナル経路を明らかにした。 本研究では、肝臓の組織環境を模倣し、静止期の星細胞を維持する培養系を開発することで、特に星細胞の初期活性化を引き起こすメカニズムを解明するため計画を進めている。現時点で、培養系での肝星細胞におけるメカノトランスダクションの関与、特に、硬度とHippoシグナルとYAP/TAZの関与、そして肝星細胞と肝実質細胞の接着が、実際に、E-Cadherinを介して接着していること、肝星細胞でのE-CadherinとN-CadherinのSwitchの重要性等を、見いだすことができた。人工肝臓や臓器再生研究の観点からも肝星細胞を静止期のまま保持させることが、肝実質細胞の機能を維持するための重要な因子であるのか検討を進めたい。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
肝臓の線維化過程に中心的な役割を果たすと考えられている肝星細胞の機能、特に活性化の分子機構のメカニズム解明のため、肝星細胞分離法を確立し、この分離培養星細胞を用いて星細胞活性化に伴って変動する各種分子動態を遺伝子レベルおよび蛋白質レベルでの解析を行ってきた。しかしながら培養系の星細胞は、活性化が自然と起こるため、生体内で静止期を維持しているのは、肝細胞との接着が星細胞にとって重要な因子ではないかという考えに至り、実験を開始した。星細胞活性化には、サイトカイン等液性因子の刺激が関与することがよく知られているが、肝細胞との接着が星細胞の静止期維持に関与するかどうか詳細な検討はなされていない。分離培養星細胞の初期の時点でのE-cadの発現は強く、星細胞株をもちいて、E-cadとYAP/TAZの強制発現を行うと、E-cadによりTotal TAZの発現が減少し、活性化マーカーであるSMAの発現も減少し、TAZによりN-cad発現が上昇することを確認した。 また、マウスに四塩化炭素を投与し、12時間後に肝星細胞を単離しウエスタンブロットによってYAP/TAZの発現を解析したところ、未処置マウス由来肝星細胞に比べ、四塩化炭素投与マウス由来肝星細胞でYAP/TAZ、特にTAZの発現が亢進し、活性化星細胞関連分子の発現も上昇していた。また蛍光免疫染色による観察では、未処置マウス肝においては肝星細胞にTAZが発現していないが、四塩化炭素の投与によってTAZが核内に発現し転写因子として働いていることを示唆する像が得られた。
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今後の研究の推進方策 |
肝細胞と星細胞の接着には、E-cadが関与しており、この接着消失がトリガーとなり、星細胞が活性化する可能性が高いのであるが、星細胞が活性化するとE-cadの発現が消失し、N-cad, インテグリンの発現が増強する。そこで、E-cad, N-cad そしてインテグリン等の発現、およびHippoシグナル、FAKシグナルの関連を詳細に検討する。その手法のひとつとして、CRISPR/Cas9を用いてそれぞれE-cad, N-cad, インテグリン等のゲノム欠失星細胞cell linesを作製、あるいはSiRNAによりノックダウンし、星細胞活性化のメカニズムを明らかにしたい。 これと平行して、血管構造の模倣や肝臓組織の再構築など、培養系の工夫を行う。これは、これまでのdish上での培養ではできなかった細胞の極性、肝細胞星細胞機能維持等の検討を行うため、「肝臓基質」やゼラチンを成分とする管腔構造物を作製し、内皮細胞をもちいた培養を行ってきたが、両者ともに直系50μm以下のサイズでの血管構築は困難であった。そこで、今回は、これら構造物にE-cadherinコートを施し、肝星細胞を接着させた後に、内皮細胞の培養を試みる。さらに、フロー培養装置に接続し、その上で、上皮細胞、間葉細胞の極性を維持できる3次元培養での検討を行う。評価方法としては、免疫組織化学、透過型ならびに走査型電顕による形態学的検討と肝細胞機能の指標としてのALBの産生、p450 Cyp3A1,Cyp7A1等の発現を検討する。人工肝臓や臓器再生研究の観点からも肝機能を維持するための細胞組織構築の重要性の検討を行いたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナ禍の影響により、研究会、学会への参加、および物品の調達に関し、当初の予定通りとは、いかずに変更をせざるを得ない状況であった。繰り越しとなった148,742円は、次年度に物品費として使用する予定です。研究自体は、順調に進んでいる。 分離培養星細胞の初期の時点でのE-cadの発現は強く、星細胞株をもちいて、E-cadとYAP/TAZの強制発現を行うと、E-cadによりTotal TAZの発現が減少し、活性化マーカーであるSMAの発現も減少し、TAZによりN-cad発現が上昇することを確認した。また、マウスに四塩化炭素を投与し、12時間後に肝星細胞を単離しウエスタンブロットによってYAP/TAZの発現を解析したところ、未処置マウス由来肝星細胞に比べ、四塩化炭素投与マウス由来肝星細胞でYAP/TAZ、特にTAZの発現が亢進し、活性化星細胞関連分子の発現も上昇していた。また蛍光免疫染色による観察では、未処置マウス肝においては肝星細胞にTAZが発現していないが、四塩化炭素の投与によってTAZが核内に発現し転写因子として働いていることを示唆する像が得られた。
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