研究課題/領域番号 |
21K06760
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研究機関 | 自治医科大学 |
研究代表者 |
冨永 薫 自治医科大学, 医学部, 教授 (20265242)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 神経幹細胞 / 神経発生 / クロマチン / ヒストンアセチル化 / 転写制御 |
研究実績の概要 |
エピジェネティックな調節機構が神経系の構築に関与しており、その破綻は神経幹細胞の維持や神経発生、高次脳機能に大きな影響を与えると考えられている。しかしながら、エピジェネティック因子により、これらの事象がどのように制御されるのかについての詳細な分子機構は、未だ不明な点が多い。本研究では、脳に高発現するTip60ヒストンアセチル化酵素に着目し、神経発生におけるヒストンアセチル化の役割の解明を目指す。神経幹細胞特異的Tip60欠損マウスを用いて、神経幹細胞の自己複製および神経分化におけるヒストンアセチル化の役割を明らかにすることを目的とし、当該年度は以下の結果を得た。 1、いくつかの市販の抗Tip60抗体を用いて、マウス培養神経幹前駆細胞を対象にクロマチン免疫沈降法 (ChIP) の条件検討を行い、最適条件を確立した。 2、胎生期14.5日脳のRNAを用いた遺伝子発現解析でグルカゴン遺伝子がTip60欠損脳で高発現していることが明らかとなった。胎生期16.5日から18.5日の大脳皮質の免疫組織学的解析から、GLP-1がTip60欠損脳で高発現していることが明らかとなった。 3、マウス子宮内胎仔脳への遺伝子導入法を確立するためにベクターの選択を行なった。マウス培養神経幹前駆細胞に緑色蛍光タンパク質 (GFP) を発現するプラスミドを導入し、CAGプロモーターが最適であることを明らかにした。マウス子宮内胎仔脳への導入に必要な遺伝子をCAGプロモーター制御下で発現するベクターを構築した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
現在までの研究目的は、おおむね順調に進展している。胎仔脳のRNAを用いた遺伝子発現解析でグルカゴン遺伝子がTip60欠損脳で高発現していることが分かった。Tip60が遺伝子発現の抑制にも関与する可能性が示唆された。また、ChIP-seq解析に必要な抗体の選別や条件検討、マウス子宮内胎仔脳への遺伝子導入法の確立に必要な諸条件の検討も順調に進行している。
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今後の研究の推進方策 |
今後、以下について研究を進める予定である。 1、胎仔脳の抗Tip60抗体を用いたChIP-seq解析を行い、Tip60ヒストンアセチル化酵素により調節される標的遺伝子を同定する。また、より高感度でネイティブな条件でクロマチン解析が可能なCUT&Tag解析を検討する。 2、遺伝子発現解析およびChIP-seq解析により同定されたTip60標的候補遺伝子のプロモーター領域をルシフェラーゼ遺伝子をレポーターとした融合遺伝子を構築し、Tip60発現の有無でプロモーター活性を検討する。 3、マウス子宮内胎仔脳への遺伝子導入法を用いてTip60欠損胎仔脳にTip60発現プラスミドを導入し、Tip60欠損で観察された神経幹細胞の自己複製能や神経分化能の低下が回復可能かどうかを検討する。またTip60欠損による神経細胞の移動抑制にともなう大脳皮質の6層構造形成不全が回復可能かどうかも検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
昨年度はChIP-seq解析に必要な抗体の選抜とマウス子宮内胎仔脳への遺伝子導入法に必要な新たなプラスミドの構築などに時間を費やした。次年度は、必要なマウスを維持するとともに、ChIP-seq解析によるTip60標的遺伝子の同定とマウス子宮内胎仔脳への遺伝子導入法を用いた解析を主に行い、それに必要な試薬の購入に費用を使用する。研究の実施にあたり、以下の様に助成金を使用予定である。 1、経費の主要用途は消耗品の購入で、細胞培養試薬(培地、血清、成長因子など、300千円)、生化学・分子生物学用試薬(酵素、抗体、PCRプライマー、キット、化学試薬など、600千円)、細胞培養器具(フラスコ、プレート、ピペット、チューブ、チップなどのプラスティック類、500千円)、組織染色に必要な器具・試薬(225千円)の購入が必要とされる。2、実験動物、マウス維持費として200千円。3、学会発表などで研究成果を報告するために必要な出張旅費として50千円。4、論文を誌上発表するために必要な経費として論文投稿費用(50千円)。
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