研究課題/領域番号 |
21K06764
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研究機関 | 国立研究開発法人国立循環器病研究センター |
研究代表者 |
福井 一 国立研究開発法人国立循環器病研究センター, 研究所, 室長 (80551506)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 心臓弁形成 / メカノトランスダクション / ゼブラフィッシュ / 血行力学特性 |
研究実績の概要 |
本研究では、心臓弁形成に関わる力学情報に依存した化学シグナル情報変換機構の時空間特異性を解き明かすことを目的としている。昨年度の研究から、力学応答シグナルの上流で細胞外ATPが関わることをRNAscopeによる検討、弁形態形成過程などから明確にした。本結果に加えてこれまで得てきた成果(直接的な力刺激が心内膜内皮細胞のCa2+-Nfatシグナルを活性化する)を纏めた論文が受理され、2021年10月15日のScience誌に掲載された。論文発表の他に、学会・研究会での報告、ウェビナーでの研究紹介、日本語の科学専門誌への寄稿を積極的に行いアウトリーチ活動を行った。 研究実施計画にある研究は未だに解決できていない課題であるため、本研究計画を継続して行っている。以下に現在進行している研究を記載する。 ① 実施計画に記載した細胞内Ca2+流入が細胞位置情報のどこに起因するのか、明らかにするために細胞膜局在型の高発現Ca2+センサートランスジェニック系統Tg(5xuas:IVS-Syn21-myr-GCamp7a)の作製を行っている。現在、トランスジーンが発現する個体(F0世代)の同定が完了し、F1世代より解析を行う予定である。 ② 時空間特異性をもつ力学応答シグナルがどのように制御されているのか、細胞外環境の力学特性を人為的に調節することで力学応答シグナルへ影響があるのか検討した。高速で血流動態を観察することができる共焦点レーザー顕微鏡(Dragonfly)を利用して詳細に観察した結果、弁形成期の血行特性と相関していることが示唆される結果がえられた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本計画の目的を達成するために重要な点として位置づけていた、どのような力学特性が時空間特異的な力学応答シグナルを調節するのかについて、明確な進展がえられたため区分(2)を選択した。 昨年度の研究では、まず細胞外間質の構成を変化させるためのトランスジェニック個体の作製を行った。細胞外間質の構成成分であるヒアルロン酸の合成促進と、分解促進をそれぞれ行ったが、力学応答シグナルへの明確な影響は認められなかった。 つづいて、心内膜内皮細胞の管腔側に位置する血流の方向性(流れ特性)について検討したところ、流れ自体がシグナル調節に関与している知見が得られた。血流は心臓が拍動する限り継続しておきるが、心臓弁領域の流れの方向性は弁形成時期でダイナミックな変化がみられる。特に、未成熟弁の際に限って弁領域で発生する双方向性の血流に対して、自身が見出した力学応答シグナル(Ca2+-Nfatシグナル活性)がおきることを見出した。 本知見を確定するためには血流特性を詳細に分析する必要があり、分析で得られた血流特性を人為的に発生させた際に力学応答シグナルが再現できるのか明らかにする必要がある。本年度以降の検討から、どのような特性の力が力学応答シグナルの特異性を規定するのか明らかにすることを予定している。
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今後の研究の推進方策 |
本研究を遂行してきた中で、力学応答シグナルの時空間特異性には血流特性が関わる結果が得られてきた。この結果は様々な弁形成時期の詳細観察によって得られたものであるので、現象を自ら誘導することができれば、より確実な現象としてみなすことができると考える。そこで本申請者はすでに血流を操作する手法を開発しているため、まず血流の操作によって力学応答シグナルが変化しうるのか明らかにする。 つづく検討ではどの血行力学特性がシグナル活性化に重要な要因となるのか明らかにするため、管腔内へ0.5マイクロメートルの微細な蛍光粒子を打ち込み、血流高速イメージングを行う。そして速度、せん断応力、せん断応力指数(OSI: oscillatory shear index)、血行力学高調波(hemodynamic frequency harmonics)などのパラメーターを定量化する。 また、細胞はどのように血流の違いを認識するのかについても明らかにする検討を行っていく。特に心臓の管腔を構成する心内膜内皮細胞膜のしわ変形に着目した解析を行い、流れの特異的認識との関連を明らかにする実験を計画している。
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