本課題目的は、心臓弁形成を制御する力学応答性シグナルが、①:どこから、②:どのように入力されるのかを明確にすることである。課題開始当初、細胞外ATPを定量的に評価するための蛍光ATPセンサーの活用を目指したが、検討した中ではシグナル可視化に至らず評価できなかった。理由として、蛍光センサーがもつ解離定数が細胞外ATP量に適していなかったことが考えられたため、今後はセンサー感度の改変などにより、細胞外ATP量の変動を評価できるようにしたいと考えている。課題①について、細胞膜局在性Ca2+レポーターを樹立した。100枚/秒の高速イメージング解析によって、管腔に面する細胞膜が力学応答シグナルの開始点であることが明らかとなった。さらに、ミトコンドリア外膜に局在するCa2+レポーターを樹立したことで、管腔膜を起点とする細胞内Ca2+動態を裏付けることができた。研究当初は管腔面とは反対側の間質面からの力学応答の可能性を考えたが、本結果は管腔面の力がシグナル制御を行うことを支持している。 課題②について、力学シグナル変換においては、管腔内に打ち込んだ磁性流体を胚体外から磁力操作する力操作法を開発した。そして、細胞膜に対して並行に働くせん断応力が重要であることが示唆された。一方、垂直に働く応力は力学応答シグナルを起因する要素としての役割を果たさなかった。これは、細胞が力学特性を適切に認識して細胞内応答を行っていることを示唆する。続く検討では血流を経時的に観察した結果、せん断応力の中でも、双方向性血流の重要性が明確になった。心臓弁が機能的構造をとり、1方向の血流となる時期では、血流・拍動としった力学刺激の存在下でも力学応答シグナルが消失する。今後、血流方向を認識した細胞応答機構を知ることで、心臓管腔形成・維持の全容理解に繋がる研究を目指す。
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