本研究では、インスリン分泌を調節する主要な過程であるにもかかわらず、最も理解に乏しい「インスリン分泌顆粒の動員過程」を制御するしくみを定量的に理解することを目的とする。このために、蛍光ナノ粒子である量子ドットを用いた一分子イメージングによってインスリン分泌顆粒の動態を高い精度で計測できる独自の手法を開拓し、いくつかの分泌調節因子による制御様式を定量記述することを目指した実験を行う。昨年度までに、HaloTagを融合したインスリン分泌顆粒膜タンパク質を発現させたラット膵β細胞由来INS-1細胞に対して量子ドットを結合させたHaloTagリガンドを導入して標識することで、インスリン分泌顆粒の動態を高い精度で追跡できる手法を確立し、細胞骨格系によるインスリン分泌顆粒動態の調節について示唆を得ていた。本年度はこれらの解析をさらに進め、1)微小管ダイナミクスはインスリン分泌顆粒の動態に対して促進的な役割をもつこと、2)F-actinはインスリン分泌顆粒の動態に対して異なる2つの役割を担うこと、を見出した。また、高濃度グルコース・パルミチン酸存在下で培養したINS-1細胞では、インスリン分泌顆粒の動態とF-actinの細胞内構造の異常を認め、インスリン分泌顆粒の動態と病態との関連も示唆した。以上のように、本研究では細胞内部で起こるインスリン分泌顆粒の動態を計測するための新たな手法を開拓し、その調節と病態との関連について知見を得ることに成功した。この手法と知見について学術論文として報告した。
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