肥満や2型糖尿病は、心肥大のリスクファクターである。これらが合併すると予後が悪くなることが知られているが、その治療法および予防法は未だ確立されていない。カルシニューリンB様タンパク質3(CHP3)は心臓に多く発現するが、機能が不明なタンパク質の一つである。先行研究により、CHP3をノックダウンした心筋細胞は肥大化することがわかった。また、CHP3がインスリンシグナルの中核を担うタンパク質であるAktやGSK3βの活性を負に調節する可能性を見出した。インスリンシグナルの亢進は、心肥大の発症を引き起こすことが知られており、CHP3が肥満や2型糖尿病による心肥大の形成を抑える鍵となるのではないかと考えられた。本研究では、CHP3欠損マウスを用いてこの仮説を検証することを目的とした。生後11週目のCHP3欠損マウスの体重は野生型と同程度であったが、30週齢を超えると有意に増加した。11週齢のCHP3欠損マウスでは、心臓の長径は野生型と変わらなかったが、60週齢では野生型マウスに比べて大きくなる傾向が見られた。さらに、経口ブドウ糖負荷試験により、48週齢のCHP3欠損マウスでは野生型マウスに比べて糖負荷後の血糖値が上昇していた。一方、骨格筋についても検討したところ、12週齢のCHP3欠損マウスでは大腿直筋とヒラメ筋の重量が減少し、筋力も減弱する傾向が見られた。骨格筋は、血中の約8割の糖を消費する臓器であるため、CHP3欠損による骨格筋の減少が肥満や2型糖尿病の発症や増悪に関わる可能性が考えられた。以上より、CHP3欠損マウスは骨格筋が減少することで糖代謝異常を引き起こし、心臓を肥大化させることが示唆された。
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