オキシトシンは、出産や授乳などの生理的なプロセスに関与するホルモンであるが、最近の研究では痛みにも関与していることが示唆されている。しかし、オキシトシンがどのように疼痛伝達に関わるのか、詳細な機序は解明されていない。我々は、オキシトシンニューロン特異的に薬剤興奮性人工受容体(hM3Dq)と赤色蛍光タンパク(mCherry)を発現させた遺伝子改変ラットを作出し、疼痛制御における内因性オキシトシンの役割について解明することを目的とした。 我々は、人工受容体遺伝子を挿入した遺伝子改変ラットを用いて、オキシトシンが痛みの知覚や調節において重要な役割を果たしていることを示した。オキシトシンニューロンの活性化は、中枢では下行性疼痛抑制系を活性化させ感覚伝達を抑制し、末梢では肥満細胞の脱顆粒を抑制し局所の炎症をおさえることで、痛みの感覚を軽減することが示唆された。また、オキシトシンニューロンの活性化は、脊髄における様々な遺伝子発現に影響を及ぼし感覚伝達に影響をあたえていることが示唆された。 この研究は、オキシトシンが痛み知覚と調節に重要な役割を果たすことを内因性のオキシトシンニューロンを活性化させる手法を用いて直接的に証明したものである。したがって、新たな疼痛治療法の開発や、疼痛管理の向上につながる可能性を秘めている。これらの研究成果は、これまでにない視点から身体的なプロセスを理解する手掛かりとなり、神経科学分野における基礎研究、ひいては臨床応用を見据えた橋渡し研究に貢献する。
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