YAPは、細胞の生存、エネルギー代謝などを制御する重要な転写共役因子である。研究代表者は、これまでに心筋細胞において、YAPの活性化がHIF-1αを介してGLUT1の発現を誘導することを見出している。そこで本研究では、糖尿病モデルラットの網膜においてYAPが活性化しているか否か、活性化したYAPがHIF-1αを介してGLUT1の発現を増加しているか否かについて検討した。研究代表者は、これまでにストレプトゾトシン(STZ)投与誘発性1型糖尿病モデルラット網膜のミュラー細胞において活性化型YAPの発現が増加することを見出した。また、糖尿病で増加し病態形成に関わることが示唆されているメチルグリオキサール(MGO)をラット硝子体内投与したところ、このラットのミュラー細胞においても活性化型YAPの発現が増加していることを見出した。次に、STZラットおよびMGOモデルラットの網膜においてHIF-1αおよびGLUT1の発現量が増加しているか否か、Western blot法で評価したが、これらの糖尿病モデルラットの網膜ではHIF-1αおよびGLUT1の発現量の増加は認められなかった。そこでMGO硝子体内投与モデルの網膜においてYAPシグナリングが活性化しているか否か、YAPの標的遺伝子であるCYR61のmRNA量を測定することで確認した。その結果、CYR61のmRNA量は約6倍に増加しており、ミュラー細胞においてYAPシグナリングが亢進していることが示唆された。これらの結果より、糖尿病時の網膜ではミュラー細胞のYAPが活性化していることが示唆されたが、このYAPはGLUT1の発現には影響しないものと考えられた。
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