研究実績の概要 |
本研究計画では、慶應義塾大学・柚崎研究室で開発された光作動性LTD阻害するツール(PhotonSABER,Kakegawaら,Neuron 99: 985, 2018)を利用し、空間記憶・学習に関与している海馬で観察される長期抑圧(long-term depression:LTD)と直接的な因果関係を示す行動レベルでの機能の解明を目的とした。 初めに樹立済みのCre依存的にPhotonSABER(PS)を発現するノックイン(KI)マウスと前脳の興奮性神経細胞特異的にCreを発現するCaMKII-Creマウスを交配させ、海馬を含む前脳の興奮性神経細胞にPSを発現するマウスを作製した。このマウスを用いてPSが急性脳スライスレベルで光依存的に海馬CA1錐体細胞のLTDを抑制できるかどうか評価を行ったが、PSの活性化に必要な強度(1000 lux以上)の光刺激を行うと、小脳とは異なり海馬では光毒性が生じてしまい、PSを用いて海馬CA3-CA1シナプスのLTDを抑制する条件を確立する事が出来なかった。 次にPSを更に高発現させ、より低強度の光刺激でLTDが阻害できるようにする条件の確立を目指した。最終的な行動実験での使用も考慮し、静脈投与により全脳的に外来性遺伝子の発現が可能なAAVベクターAAV-PHP.eBにPhtonSABERを組み込んだAAVベクターを作製し、免疫染色レベルではKIマウスより高発現させることが出来る実験系を樹立出来た。しかし、この高発現条件下でも、光刺激によって海馬CA3-CA1シナプスのLTDを抑制する事が出来なかった。 研究期間を通じて、光刺激による原因不明の毒性のため十分な強度の刺激を行えなかったと考えられる。今度、他の脳部位、例えば扁桃体を標的として恐怖条件付けの行動実験をモデルとしてLTDと直接的な因果関係のある生理機能の解明に繋げたい。
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