研究課題/領域番号 |
21K06793
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研究機関 | 生理学研究所 |
研究代表者 |
立山 充博 生理学研究所, 分子細胞生理研究領域, 准教授 (30276472)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | THIKチャネル / 光クロスリンク反応 / Gタンパク質共役型受容体 |
研究実績の概要 |
本研究は「THIKチャネル遠位C末端領域によるゲート制御機構の分子基盤の解明」を目的とし、2021年度は「Gq共役型受容体刺激によるTHIK-1チャネル活性化はチャネルのゲート構造を変化させることにより起きる」という仮説の検証を計画し、以下の実験を行い一定の結果を得た。 先ず、紫外線照射により N=N=N基が活性化し数Å以内の官能基と不可逆的に反応する光クロスリンクアミノ酸 4-azido-phenylalanine (4-AzP)を THIK-1チャネル第4膜貫通部位の任意の位置に導入することに成功した。V278に導入した場合を除いて、4-AzP導入チャネルはGq共役型受容体刺激による電流の増加を示し、Gq共役型受容体によるチャネル活性化機構を維持していた。次に、紫外線照射を行ったところ、多くのチャネルが電流の増加を示したが、L275への導入では電流の減少が見られた。これらの結果は、紫外線照射による光クロスリンク反応もしくは窒素分子の離脱によりチャネル膜貫通部位に構造変化が生じたことを示唆するものであった。紫外線照射後、Y273、F276、V278およびI281に4-AzPを導入したチャネルではGq共役型受容体刺激による電流増加作用が見られなかったが、他の部位への導入では電流増加作用を認めた。幾つかのチャネルで紫外線照射後にGq共役型受容体による電流増加作用が消失したという結果は、ゲートを構成する膜貫通部位の構造が固定され、Gq共役型受容体による構造変化が阻害されたことによると考えられた。これは、仮説を支持するものであった。 さらに、同一グループに属するTHIK-2チャネルにおいても同様な実験を行い、THIK-1およびTHIK-2チャネルにおける重要なアミノ酸残基を比較することで、共通するチャネル活性化機構の解明につなげるべく、複数のコンストラクトを作製した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2021年度は、THIK-1チャネル第4膜貫通部位に位置する任意のアミノ酸残基を光クロスリンク人口アミノ酸 4-AzPで置き換えることに成功し、4-AzP導入チャネルの多くがGq共役型受容体による電流増加作用を維持することを確認した。また、紫外線照射によりGq共役型受容体の作用が消失する部位も同定したことにより、チャネルのゲートを構成すると考えられている第4膜貫通部位での構造変化がチャネル活性化に関与するという仮説が、一部検証できたと考えている。 本研究の目的である「チャネル機能制御機構におけるチャネル遠位C末端領域の役割の解明」には、光クロスリンクアミノ酸の利用が必須であるため、この人工アミノ酸の導入と導入チャネルへの紫外線照射などの実験系の確立は必須であった。ゲート機構に関わる膜貫通部位への光クロスリンクアミノ酸の導入および紫外照射実験の成功は、今後計画している研究の進捗を保証するものであると考えている。 以上のことから、研究はおおむね順調に進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
THIK-1チャネルにおける重要なアミノ酸残基を同定できたこともあり、THIK-2チャネルにおいても同様の実験を行い重要なアミノ酸残基を比較することで、THIKチャネルに共通する活性化に関わる構造基盤の解明へとつながる実験を行う。同時に、チャネルC末端領域がGq共役型受容体によるチャネル活性化機構の一部をなすことを証明するために、チャネルC末端領域に4-AzPを導入し紫外線照射による電流の増減とGq共役型受容体の作用の有無を調べる。 C末端領域に4-AzPを導入したチャネルが紫外線照射による電流の増減を示した場合、C末端領域と光リンク反応により非可逆的に共有結合するアミノ酸残基が存在することが示唆される。そこで、結合するアミノ酸残基の同定を目的とした生化学的実験を開始する。先ず、チャネルのC末端にFLAGタグを付加したチャネルコンストラクトを作製し、ウエスタンブロットによりチャネルタンパク質の発現を確認するとともに、4-AzPを導入したチャネルでも同様の実験を行う。さらに、光クロスリンク反応の相手となるアミノ酸残基の絞り込みのために、protease Xa 切断認識配列を導入したチャネルコンストラクトの作製と実験条件の確立を並行して行いたい。ただし、これらの生化学的実験は、主に実験系確立と条件検討を中心に行う予定である。 生化学実験の進捗が思わしくない場合は、チャネル C末端領域と相互作用する可能性のあるチャネル膜貫通部位直下や第2第3膜貫通部位を結ぶ細胞内ループ領域のアミノ酸残基にアラニン変異を導入して、各変異体のGq共役型受容体活性化への応答を調べることで、相互作用に関与する部位の検討も進める。
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次年度使用額が生じた理由 |
本研究計画採択前に、他の予算からLED照射装置に組み込めるタイプの紫外線照射LEDユニットを購入し、予備実験を行った。このユニットに関しては、安価ではあるが蛍光強度に関する情報の不足という問題もあり、紫外線強度が十分かどうかという不安があった。そこで、LED照射装置の取得を計画したが、予算配分の問題から、新規紫外線LED照射装置の取得を断念し、予備実験にて用いていたLED照射ユニットを使用して実験を行っている。このため、物品費に余剰が生じた。また、日本生理学会年参加のための旅費を計上していたが、蔓延防止措置に伴いオンライン参加へと切り替えたため、学会参加用として計上した旅費が発生しなかった。 以上により、次年度使用額が生じたが、これを2022年度の消耗品に充てる予定である。特に、生化学実験の実験条件検討への使用を見込んでいる。
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