今年度は、ELF3 が直接的に発現制御する免疫関連因子の同定を行った。HBDEC2 細胞を用いて CRISPR-Cas9 システムにより ELF3 を遺伝子欠損した細胞 (ELF3-knockout(KO)細胞)とそのKO 細胞を用いてtetOn による ELF3を過剰発現させた細胞を作製し、遺伝子発現解析を行った。さらに、ELF3 過剰発現細胞を用いて ELF3 の特異的抗体による ChIP-Seq 解析を行い、KO 細胞と過剰発現細胞の遺伝子発現変動と照合し、ELF3 が直接結合することで発現制御すると考えられる 53 遺伝子を抽出した。これらを用いてpathway 解析を行ったところ、defense response、inflammatory response、positive regulation of cell migration において有意差が認められ、いずれも免疫細胞の遊走を制御する因子の発現に関わっていることが明らかとなった。そこで、好中球を遊走させるロイコトリエンB4の産生酵素である5-リポオキシゲナーゼ (ALOX5)、活性化T細胞の遊走に寄与するケモカインであるCXCL16 (CXCL16)、上皮細胞と免疫細胞の接着に関わるintegrin beta2 (ITGB2) に着目し、ChIP assay を行ったところ、ELF3 がこれらの遺伝子に直接的に結合していることを明らかにした。以上のことから、ELF3 は、発がんの過程で細胞死を誘導するだけではなく、免疫細胞の遊走にも関わっている可能性が考えられ、ELF3の機能低下は発癌に寄与することが示唆された。
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