研究課題/領域番号 |
21K06802
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研究機関 | 広島大学 |
研究代表者 |
秀 和泉 広島大学, 医系科学研究科(医), 講師 (20253073)
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研究分担者 |
酒井 規雄 広島大学, 医系科学研究科(医), 教授 (70263407)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | ミクログリア / 炎症 / P2Y2受容体 / 死細胞貪食 / トル様受容体4 / リポポリサッカライド |
研究実績の概要 |
ミクログリアは脳の主要な貪食細胞であり、異物や死細胞を除去し脳の恒常性維持を担う。しかし近年、ミクログリアによる過剰な貪食が生きた神経細胞に死を引き起こし、神経変性などの病態形成に関与する報告が相次いでいる。また、ほとんどの脳疾患では炎症が生じており、炎症はミクログリアの活性化と貪食促進を引き起こすと考えられるが、その詳細は不明である。これまでに、ラット脳初代培養ミクログリアの中に高い貪食能をもつサブセットが存在すること、これらは炎症刺激により長期に渡り生存し高い貪食能を持つことを見出し、この炎症誘導性高貪食能には細胞外ATP/UTP受容体であるP2Y2受容体が関与することを明らかにしてきた。しかし、炎症刺激がP2Y2受容体の活性化を引き起こすメカニズムは明らかではない。そこで本年度は、リポポリサッカライド(LPS)による炎症刺激によりP2Y2受容体がどのような活性化に向けた制御を受けるのかを検討した。P2Y2受容体は無刺激下ではミクログリアの核周辺に局在するが、LPS刺激を受けると形質膜に移行した。また、P2Y2受容体の細胞外領域をエピトープとする抗体を用いることにより、生きたミクログリアの形質膜上へのP2Y2受容体発現を観察する方法を確立した。このP2Y2受容体ライブイメージングにより、無刺激下ではP2Y2受容体は細胞体中心部に局在し、形質膜先端にはほとんど発現しないが、LPS刺激によりリーディングエッジと呼ばれる形質膜の先端部分へP2Y2受容体の集積が誘導されることが示された。またその後、活性化ミクログリアにおいてP2Y2受容体発現は特異的に著しく上昇した。これらの結果により、炎症時のミクログリアの死細胞貪食の認識と取り込みの一連の反応にP2Y2受容体が重要な役割を果たすことが強く示され、新しい活性化メカニズムの提唱が可能となった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
多くの脳の疾患は炎症を伴っているが、炎症下でのミクログリアの死細胞貪食のメカニズムについては不明の点が多い。今回、新しく炎症刺激であるLPSによるTLR4活性化により貪食の起きる場である形質膜の先端にP2Y2受容体が集積する証拠を生きた細胞で得ることができた。これまで、ミクログリアの死細胞貪食におけるP2Y2受容体の関与を示す報告はないことから、炎症反応の新しい活性化機構の仕組みの解明が期待される。このことから、研究は順調に進んでいると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
LPSによりTLR4活性化によりP2Y2受容体が細胞内から形質膜の先端の表面に移行し、死細胞の取り込みに関与する新しいメカニズムの可能性が示された。さらに、これまでの研究から、貪食のみならず炎症を制御するサイトカインや一酸化窒素などの産生にもP2Y2受容体が関与する知見を得ている。これまで、TLR4刺激は直接細胞内シグナルカスケードを駆動し、転写因子を活性化することで様々な遺伝子発現を制御すると考えられてきたが、このシグナルカスケードにおいてATPとP2Y2受容体が普遍的な役割を果たしている可能性が考えられる。TLR4の下流で活性化される炎症反応に重要な役割を果たすシグナルはP2Y2受容体活性化の下流で制御を受けるのではないか。その場合、P2Y2受容体を活性化するATPやUTPはどこから来るのか、ミトコンドリアの関与はあるのか、放出のメカニズムは何か、死細胞貪食と炎症反応に焦点を当て、P2Y2受容体を介した新しい活性化メカニズムについて明らかにしていく予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度検討課題であったシグナル伝達の試薬の購入を次年度に繰り越した。これらの試薬は次年度に購入する計画である。
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