研究課題/領域番号 |
21K06802
|
研究機関 | 広島大学 |
研究代表者 |
秀 和泉 広島大学, 医系科学研究科(医), 講師 (20253073)
|
研究分担者 |
酒井 規雄 広島大学, 医系科学研究科(医), 教授 (70263407)
|
研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
|
キーワード | ミクログリア / LPS / TLR4 / P2Y2受容体 |
研究実績の概要 |
ミクログリアはTLR4リガンドであるリポポリサッカライド(LPS)の刺激を受けると正常時とは異なる炎症特異的な貪食機能を発揮することを明らかにした。その機序にはGq/11共役型であるP2Y2受容体と炎症時に発動する貪食受容体Axlが関与する。P2Y2受容体はLPS刺激により細胞中央から形質膜へと細胞内局在を変化させ、その後急激な発現上昇を示す。また、LPS誘発による炎症性サイトカイン産生もP2Y2受容体の遮断により抑制されることから、P2Y2受容体はTLR4を介する炎症機能の幅広い発現において重要な役割を果たす可能性が考えられる。貪食やサイトカイン発現に深く関与しTLR4の下流で活性化されるシグナル伝達因子のうちERK1/2とPI3キナーゼ/Aktの活性化経路には不明の点が多い。ERK1/2のリン酸化はLPS刺激により速やかにかつ一過性に引き起こされ、この反応はP2Y2受容体とともに他のP2受容体の関与も示された。一方、Aktのリン酸化はLPS刺激3時間後でも持続的に生じており、この反応にはP2Y2受容体が中心的なな役割を演じている。これらの結果は、LPS刺激を受けたのちP2Y2受容体活性化が誘導される時間経過とも一致する。したがって、ミクログリアのTLR4はP2Y2受容体活性化によりその下流シグナルであるERK1/2やPI3キナーゼ/Aktの活性化を誘導し、炎症反応を引き起こす可能性が示された。また、LPS刺激はミクログリアに細胞死を引き起こすが、この反応もP2Y2受容体遮断により抑制された。このことから、P2Y2受容体の働きは多岐にわたり極めて重要であると考えられた。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
LPSがTLR4を活性化し炎症関連遺伝子発現を誘導することはよく知られた事実である。TLR4のシグナル伝達にはMyD88依存的経路とMyD88非依存的経路があり、MyD88経路はTRAF6を介してNF-kBの活性化を介して炎症性サイトカイン遺伝子を発現する一方、MyD88非依存的経路ではLPSと複合体を形成したTLR4はエンドソームに内在化してTRAF3を活性化し、転写因子IRF3を介してI型IFNを産生する。これらのシグナルの流れは十分解き明かされているが、貪食や遺伝子発現に重要なERK1/2やPI3キナーゼ/Aktがどのように活性化されるのかその経路には不明の点が多い。今回、LPS刺激によるERK1/2およびAktはTLR4刺激によるP2Y2受容体活性化の下流で駆動される可能性が示された。これは、炎症反応の新しい仕組みを解き明かす発見につながることから、研究は順調に進んでいると考えている。
|
今後の研究の推進方策 |
TLR4刺激は直接細胞内シグナルカスケードを駆動し、さまざまな転写因子の活性化を介して炎症関連遺伝子の発現を制御すると考えられている。このシグナルカスケードにおいてP2Y2受容体が普遍的な役割を果たしている可能性が考えられる。しかし、P2Y2受容体を活性化するATPやUTPがどのように産生されどのように放出されるのか、など不明な点も多く、これらに焦点を当て炎症反応におけるP2Y2受容体を介した新しい活性化の仕組みを明らかにしていく予定である。
|
次年度使用額が生じた理由 |
英語論文の雑誌掲載料を見積もっていたが、投稿がずれ込んだため次年度使用額が生じた。令和5年度に使用する予定である。
|