心不全の約50%を占める「左心室の駆出率がたもたれた心不全:HFpEF」は,有効な治療法がないため予後が不良である.HFpEFでは拡張機能が障害され,過剰な 心線維化がその主因の一つとして考えられており,筋線維芽細胞の活性を制御する新しい治療法の登場が待たれる.一方で心傷害部位の線維化組織による置換は 心臓破裂を防ぎ,心臓保護に重要な役割を果たしている.申請者は活性酸素産生酵素の一つであるNOX1/NADPHオキシダーゼ(NOX1)を欠損した (NOX1-KO)心筋芽細胞株H9c2で産生される数種の細胞外マトリックス (ECM)が「筋線維芽細胞の活性を抑制」することを見出した.本申請研究では「新たな線維化抑制因子としてのECM」による心傷害後の心臓保護と過剰な筋線維芽細胞の活性化抑制の両立を目指し,HFpEFの新たな予防および治療法の開発に繋げる.前年度までにNOX1-KO H9c2細胞のホモジネートを筋線維芽細胞に暴露すると増殖が抑制されること,さらにNOX1-KO H9c2では線維化の抑制作用が報告されているsmall leucine rich proteoglycans (SLRPs)の数種類の分子の発現が上昇していることを見出した.今年度はこれら発現上昇が認められたSLRPs分子をゲノム編集法により欠損させた 細胞のうち,オステオグリシンおよびポドカンを欠損させた細胞のホモジネートを筋線維芽細胞に暴露したところ,NOX1-KO H9c2で認められた筋線維芽細胞の増殖抑制効果が回復した.またNOX1遺伝子欠損マウスにおいて高脂肪食と一酸化窒素産生酵素阻害薬のL-NAMEの飲水によりHFpEFモデルを作製したところ,野生型マウスと比較して左心室拡張機能の改善と心線維化の指標であるcollagen1a1遺伝子の発現抑制が認められた.
|