研究課題/領域番号 |
21K06810
|
研究機関 | 東邦大学 |
研究代表者 |
三上 義礼 東邦大学, 医学部, 助教 (80532671)
|
研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
|
キーワード | 駆出率の保たれた心不全 / 糖尿病性心筋症 / 拡張機能障害 / 収縮機能障害 / 1型糖尿病 / インスリン / カルシウム / ニューレグリン1 |
研究実績の概要 |
駆出率の保たれた心不全(HFpEF)の発症メカニズムは不明な点が多く、有効な治療法も確立していない。本研究では、臓器連関の観点からHFpEFの発症機解明と、その治療法を見出すことを目的として実施した。 Streptozotocin(STZ)誘発1型糖尿病(T1DM)モデルマウスにおいて、STZ投与4週後(STZ-4W)に左室拡張機能障害が、8週後に加えて左室収縮機能障害が認められた。そこで心保護因子の作用低下が病態進行を促進するとの仮説を立て、心室において遺伝子発現が減少する分子を探索した。その結果、予想に反して、心保護因子のひとつであるNeuregulin-1 (NRG1) mRNAの発現がコントロール群に比べてSTZ-4W群で有意に上昇していた。免疫組織染色により、STZ-4W群の心室において、血管内皮、心内膜、心外膜にNRG1の局在が認められた。興味深いことに、STZ投与1週後から3週間インスリンを投与したマウスでは、心室のNRG1の発現量がControlレベルまで減少していた。続いて、NRG1の作用機序を解析するため、その受容体で心筋細胞に発現しているErbB2/4に着目した。抗ErbB2 (HER2) 受容体モノクローナル抗体製剤Trastuzumab (TRZ)を腹腔内投与しNRG1/ErbB2/4シグナルを阻害したところ、STZ-4Wマウスにおいて左室駆出率が有意に低下し、左室収縮機能障害が認められた。以上の結果から、NRG1はT1DMマウスで代償的に発現が増加し、NRG1/ErbB2/4経路を介した左室収縮機能の維持に寄与することが示唆された。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
糖尿病性心筋症早期ステージにおいて、左室駆出率の維持に寄与している分子の同定ができた。さらに、局在やin vivoレベルでの解析を通して、作用機序の解明について新たな知見を得ることができた。現在、遺伝子発現制御機構や下流のシグナル経路について解析を進めており、今後も進展が見込まれることから、おおむね順調に進展していると評価した。
|
今後の研究の推進方策 |
2023年度は、NRG1の上流、下流シグナルについてさらに解析を進め、論文としてまとめる。 上流シグナルについては、データベース解析を通して、候補となる転写因子の絞り込みを進めており、培養細胞や薬理学的実験を通してメカニズムの解明に進む。下流シグナルについては、ErbB2/4下流シグナル蛋白質のリン酸化レベル、心筋細胞における収縮に関わる分子の局在解析を進めており、分子レベルから個体レベルまで幅広い解析を実施する。最終的に論文としてまとめ、投稿する方針である。
|
次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウイルス感染症の影響で、参加予定であった学会の一部がオンライン開催となった。旅費の支出額が減少したため、次年度使用額が生じた。翌年度の消耗品費、および、旅費の一部として使用する予定である。
|