研究課題
生体内には、Gタンパク質共役型受容体 (GPCR) が数多く存在し、その下流でG-protein coupled receptor kinase 2 (GRK2) とβ-arrestin2が拮抗的に働くことで、GPCRのスイッチのオン・オフを担っている。一方、糖尿病性合併症に共通した病理学的特徴は、血管内皮障害であることが知られている。申請者はこれまでに糖尿病性血管合併症においては、GRK2が増加・蓄積し、β-arrestin2の膜移行を抑えることで、β-arrestin2とAkt相互作用を抑制し、血管弛緩因子であるnitric oxide (NO) の産生制御をかけていることを明らかにした。そこで、本研究では、糖尿病病態時に増加したGRK2と抑制されたβ-arrestin2の機能に焦点を当て、血管内皮障害時、どのように血管機能を維持しようと働くのかについて明らかにすることを目指した。本年度は、αβ遮断薬であるカルベジロールが糖尿病モデルマウスに対してAkt/endothelial NO synthase (eNOS) 経路活性化によるNO産生増加をもたらすことが確認されたため、このカルベジロールの効果にGRK2抑制効果があるのか、β-arrestin2の活性化をおもたらすのか検証を行った。その結果、カルベジロールはαβ受容体遮断下にもかかわらず、β-arrestin2の膜移行 (活性化) を引き起こすことが確認された。この時、GRK2の活性に全く変化がなかった。つまり、カルベジロールはGRK2活性に影響を与えることなく、β-arrestin2の膜移行を促し、Akt/eNOS/NO産生経路の活性化を促すことで、糖尿病性血管内皮障害を改善させる可能性が示唆された。
2: おおむね順調に進展している
本年度は、糖尿病病態モデルマウスの胸部大動脈を用いて、GRK2活性に関係なくβ-arrestin2を活性化させることで、Akt/eNOSシグナルを動かす試薬を探索することができた。カルベジロールがβ-arrestin2依存的なシグナルを動かすという基礎データを集積することができたと考えている。今後も基礎データの集積とともに、他のβ-arrestin2を動かすリガンドを探索していきたいと考えている。これらのことを総合的に判断し、概ね順調に進捗したと考えている。
上記のように、本年度の研究によって、糖尿病時、胸部大動脈におけるGRK2発現は増加蓄積しているが、その発現や活性に影響を及ぼすことなく、カルベジロールがβ-arrestin2の活性をあげることで、Akt/eNOS経路を活性化させ、NO産生を増加させることで血管内皮機能障害を改善させることが明らかとなった。今後は、GRK2の蓄積度合いに関係なくβ-arrestinをターゲット分子としてとらえ、β-arrestinを活性化させる試薬の探索を進めていきたいと考えている。胸部大動脈においては、NO産生シグナルが血管緊張性調節に重要であり、本研究で見出された成果が糖尿病性血管障害に対する治療戦略の一助となるようさらに努力を重ねていく所存である。
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