研究課題/領域番号 |
21K06812
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研究機関 | 徳島文理大学 |
研究代表者 |
古谷 和春 徳島文理大学, 薬学部, 准教授 (40452437)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | イオンチャネル / 電位依存性カリウムチャネル / 薬物 / 不整脈 / 薬理学 / 電気生理学 / 心臓 |
研究実績の概要 |
電位依存性カリウムチャネルの一種であるhERGチャネルは、ヒトの心臓の拍動を制御している。hERGチャネルの遮断薬は催不整脈リスクがあり、関心を集めている。本研究の目的は、hERGチャネルに阻害薬を作用させた際に観察される、活性化の促進(遮断薬によるファシリテーション作用)の分子機構を明らかにし、不整脈治療もしくは薬物誘発性不整脈との関連を考えることである。初年度である昨年度に、本研究開始以前の電気生理学的実験データに基づき、ファシリテーション作用の速度論的機構に対する理想モデルを構築した。本年度は、電気生理学的実験により、理想モデルが提案する薬物ーチャネル相互作用の特性を実証した。その過程で、通常の脱分極による活性化に加え、過分極でも活性化されるD540K hERG変異体を研究に用い、ファシリテーション作用の発現にはhERGチャネルの細胞内ゲートの開口によって初めて起こる薬物相互作用が必要であると示した。研究代表者を筆頭著者および責任著者として、ここまでの成果に関する論文を執筆し、薬理学の専門誌にて発表した。 構造基盤の理解についても進展があった。昨年度、種々のhERG遮断薬とhERGチャネルの相互作用の構造モデルを構築し、ファシリテーション作用を持つ遮断薬に共通する相互作用様式を見出していた。本年度、これまでの構造的な理解に基づき、薬物の構造からファシリテーションの予測を目指した。戦略としては、ファシリテーション作用の評価がなされていないテスト薬物を数種類選出し、昨年度と同様にhERGチャネルとの相互作用をシミュレーションする。そして、ファシリテーション作用を持つ遮断薬に共通する相互作用様式を示すかどうかで、実際の作用を予測し、実験的に検証した。結果として、この方法により薬物の構造からかなりの精度でファシリテーション作用の予測が出来た。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
実験計画において、二年目である本年度は、hERGチャネル遮断薬によるファシリテーション作用の理解を深めるために、初年度に構築した機能的数理モデルもしくは構造モデルの妥当性を評価する計画をしていた。上述の「研究実績の概要」で概説した通り、それらの目標はクリアしており、ここまでの研究は順調に進展している。1)hERGチャネルファシリテーション作用の詳細な電気生理学的解析、2)hERGチャネルの不活性化の構造基盤と薬物相互作用への影響について、2報の原著論文を発表できた。現在、3)ファシリテーション作用を再現する薬物-hERG相互作用の速度論的理想モデルの構築および基礎的シミュレーション解析、4)ファシリテーション作用の有無による薬物-hERGチャネル相互作用の差異に関する研究も順調に進められており、それぞれ論文を執筆している。次年度中に投稿予定である。また、海外の学術雑誌から、5)hERGチャネル遮断薬の分子機構と不整脈に関する総説の執筆依頼を受け、それも準備中である。この総説執筆は申請時には想定しておらず、予想以上の進展を見せた点であると言える。
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今後の研究の推進方策 |
次年度は本研究の最終年度である。遮断薬によるファシリテーション作用の分子機構に関しては、最終年度はこれまで並行して進めてきた「機能的理解と構造的理解の統合」に軸足をおいた研究を行う。また、その薬物治療学上の意義に関する研究も行い、hERG遮断薬のファシリテーション作用と不整脈治療、および薬物誘発性不整脈との関連性を提案する。 既に、ファシリテーション作用の分子機構に関する研究は取りまとめの段階に入っている。実験と理論研究現在執筆中の論文の結論を更に支持する実験およびシミュレーション研究を実施し、論文を仕上げることに集中する。投稿後は、査読者からの指摘に対応するリバイスを求められるはずであるから、追加の実験等も適宜行っていく。 心臓への影響を理解する研究は、次年度に本格化する。初年度に論文発表した薬物-hERGチャネル相互作用の構造モデルからhERGチャネル電流抑制の濃度依存性を定量的に予測し、心筋細胞活動電位への影響、心組織における不整脈発生への影響を多階層で解析する方法論(in silico パイプライン)と、本年度実現したファシリテーション作用を構造モデルから予測する新技術を組み合わせ、薬物の阻害とファシリテーション作用に両対応した不整脈シミュレーターを開発する。実験的な検証を行い、方法の妥当性や制限を明らかにしていく。 最終年度には、これまでの取りまとめによる目標の達成とともに、今後の研究課題を見出すことも重要である。学会発表等も積極的に行い、関連分野の研究者と議論を行うことによって、研究の深化と新たな創造を目指す。依頼されて既に執筆を開始している総説の中でも、その議論を始める予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
ファシリテーション作用を発揮する遮断薬は、hERGチャネルと相互作用した後にhERGチャネルの活性化ゲートが閉じると、チャネル内部に閉じ込められる仮説を立てていた。当初は、令和4年度中にこの仮説を実験的に検証する計画を立てており、この実験に必要な消耗品の購入費用を当該年度に確保していた。しかし、並行して実施している薬物-hERG相互作用の構造モデリングの研究が順調に進み、実験の前に構造モデルにおいて検討を行うことが研究全体をより効率的に進めることに繋がると判断した。この研究遂行の順序の変更により、次年度まで一部の消耗品購入の費用を繰り越すことにした。 実験を行う前に構造シミュレーション研究を行ったことで、薬物がチャネル内部に閉じ込められた状態になる可能性がさらに高まり、実験を行う正当性が更に高まった。次年度、電気生理学的実験に必要な消耗品購入に当てる。
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