これまでの多くの研究から、染色体安定性の維持機構は分子レベルで明らかにされつつある。しかし、その詳細については不明な点が多い。本研究は、染色体分配における新規制御因子としての JSAP に焦点を当て、JSAP がどのように染色体安定性を制御しているのか、その分子機構解明を目的とした。 本研究では、主にヒト正常二倍体不死化 RPE-1(hTERT RPE-1)細胞を用いて、JSAP1(およびJSAP2)の発現が誘導可能な細胞株の樹立と解析、及びオーキシンデグロンシステム(オーキシン添加によって標的とするタンパク質を素早く分解除去することが可能な細胞系)によるJSAP2の機能解析を行った。 本研究の成果は、以下のように要約される。(1)野生型JSAP2を過剰発現した細胞では異数性が誘導されることを見出した。JSAP1の場合も同様であった。(2)野生型JSAP2過剰発現細胞では、異常染色体(遅延染色体・染色体橋)が高頻度に認められ、核膜崩壊から後期開始までの時間は有意に短くなった。また、野生型JSAP2過剰発現により、前中期における紡錘体形成チェックポイント (SAC) 因子のキネトコア局在量が減少することを見出した。(3)hTERT RPE-1細胞では、JSAP1の発現レベルはJSAP2に比べて非常に低い。そこで、JSAP2に注目して、オーキシンデグロン法を用いてM期におけるJSAP2機能喪失の影響を調べた。その結果、JSAP2消失細胞では染色体整列異常が認められ、その整列異常細胞では核膜崩壊から後期開始までの時間は有意に長くなった。また、JSAP2消失により、前中期におけるSAC因子のキネトコア局在量の増加が認められた。 以上、本研究の遂行により、JSAPは染色体安定性の維持に関わる重要な因子として、SACサイレンシングの制御に関与する可能性が明らかとなった。
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