研究課題/領域番号 |
21K06820
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研究機関 | 高知大学 |
研究代表者 |
本家 孝一 高知大学, その他部局等, 副学長 (80190263)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | リン脂質分子種 / ドコサヘキサエン酸 / ホスホリパーゼA1 / 単クローン抗体 / α/βヒドロラーゼ |
研究実績の概要 |
神経細胞膜は、シナプス領域、傍シナプス領域、軸索領域など、機能の異なる複数の領域をもつが、特定の機能性タンパク質が特定の領域に局在するメカニズムは不明である。研究代表者らは、シナプス前部傍アクティブゾーンにsn-1位にオレイン酸鎖をもつホスファチジルコリン(OPPC)が局在すること、リン脂質リモデリング酵素のPLRP2がon siteでOPPCの膜ドメインを形成すること、さらに、このOPPC膜ドメインが、ドーパミン輸送体 や Syntaxin 4 のシナプス領域局在に必要であることを解明してきた。本研究は、神経細胞膜の他の領域においても、特定のリン脂質分子種が固有の膜ドメインを形成し、そこに特定の機能性タンパク質が集積することを明らかにする。 sn-1 位にドコサヘキサエン酸鎖をもつホスファチジルコリン(DHAPPC)を有機化学合成してマウスに免疫し、DHAPPCに対する単クローン抗体mAb10G9を得た。mAb10G9は、軸索軸部と近傍の細胞内小胞を認識することがわかった。DHAPPCの生合成に関与するホスホリパーゼA1(PLA1)を同定するため、DHAPPCを含む細胞内小胞を部分精製し、質量分析を用いたプロテオミクス解析により、リパーゼやホスホリパーゼが属するα/βヒドロラーゼファミリーメンバーABHD-Xを見出した。このABHD-Xの阻害剤処理により、軸索軸部に対するmAb10G9の反応性が消失した。ABHD-Xに対する抗体を用いた免疫染色で、ABHD-Xの局在がmAb10G9の認識部位が一致することを確認した。CRISPR/Cas9システムを用いてPC12細胞でABHD-X欠失細胞の作成を試みたが、欠失クローンを得ることができなかった。現在、ABHD-X欠失細胞を得るための別の方法を検討中である。この他、mAb10G9が認識するリン脂質分子種候補を同定した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
DHAPPCの生合成に関与するホスホリパーゼA1(PLA1)の有力候補ABHD-Xの同定に成功し、ABHD-Xの阻害剤処理により、軸索軸部に対するmAb10G9の反応性が消失することを確認した。さらに、ABHD-Xに対する抗体を用いた免疫染色で、ABHD-Xの局在がmAb10G9の認識部位が一致することを確認した。CRISPR/Cas9システムを用いてPC12細胞でABHD-X欠失細胞の作成を試みたが、残念ながらクローニング中に死滅するため欠失クローンを得ることが出来なかった。このため、別の方法で欠失細胞を得ることを計画している。
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今後の研究の推進方策 |
NGF処理したPC12細胞に、mAb#15とmAb10G9を別々に反応させ、つづいてHRPで標識した二次抗体を反応させた後、EMARS反応で標識試薬のチラミドをフェノキシラジカルに変換させ、sn-1位にオレイン酸鎖をもつホスファチジルコリン(OPPC)あるいはDHAPPCの近傍分子をタグの蛍光色素フルオレセインで標識する。細胞膜を中性界面活性剤と超音波を用いて可溶化し、抗FITC抗体固相化ビーズを用いてフルオレセイン標識されたタンパク質を濃縮単離する。単離したタンパク質をトリプシン消化した後、質量分析を用いてOPPCとDHAPPC膜ドメインに集積する膜タンパク質群を同定する。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウイルス感染症蔓延のため、研究室における実験時間の制限を受けるとともに、実験用物品の調達に停滞が生じたため。今年度実施できなかった実験計画を次年度に順延する。
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