研究課題
アルファシヌクレイン(αSyn)とタウたんぱく(tau)は脳に高発現する微小管結合たんぱく質で、これらのたんぱく質が脳に異常蓄積するとパーキンソン病やアルツハイマー病を含む重い神経変性疾患を発症させる。微小管を場としたαSynとtauの機能的相互作用を解明するため、二つの遺伝子を同時に欠損させたダブルノックアウトマウス(αSyn-/-tau-/-)を作成し、脳の発生における機能解析を行った。αSyn-/-tau-/-マウスの解析から我々は、αSynとtauの欠損が大脳皮質の形成に重要な役割を果たしていることを発見した。具体的には、αSynとtauの欠損により発生初期における神経幹細胞の分裂と神経細胞への分化が大きく促進されると同時に、Notchシグナルの減少が確認された。また、野生型(WT)マウス、αSyn-/-マウスとtau-/-マウスに比べてαSyn-/-tau-/-マウスの胎児脳がより大きく成長していた。それに対して、胎生期半ばの神経幹細胞の数は著しく減少し、引き続き行われるグリア細胞(アストロサイトとオリゴデンドロサイト)の発生に抑制的な影響を与えていた。これらの結果から、αSynとtauが脳の発生における神経発生とグリア形成を制御することが明らかになった。αSynとtauが脳の発生における機能的なクロストークは、パーキンソン病やアルツハイマー病の発症機構の解明に新しい知見を提供する。
1: 当初の計画以上に進展している
我々は、脳の発生期におけるWT、αSyn-/-、tau-/-マウスと両方の遺伝子を同時にノックアウトさせたαSyn-/-tau-/-マウスの解析を行い、αSynとtauが脳の発生に重要な役割を果たすことを発見した。(1)胎児E12-E14の解析により、αSynとtauの欠損が神経幹細胞の分裂と神経細胞への分化を促進させることが明らかになった。(2)脳組織のlive imagingを行い、αSynとtauの欠損が神経細胞への分化促進と細胞分裂期G2フェーズにおける神経幹細胞細胞核の移動を加速させたことを確認した。(3)WT、αSyn-/-、tau-/-マウスに比べて、αSyn-/-tau-/-マウスの胎児脳が著しく大きくなっていたが、生後P11からマウス脳が小さくなった。(4)胎生後期の大グリア形成、アストロサイトとオリゴデンドロサイトの増殖と成熟が抑制された。以上の結果を学術論文にまとめて、The Journal of Neuroscience誌に掲載させた。
αSynとtauのダブルノックアウトマウスでは、WTやそれぞれのシングルノックアウトマウスに比較して神経細胞の分化が早い時期(E11)から始まり、その結果、神経幹細胞の早期枯渇が起こったため、発生後期のグリア形成が障害されることが分かった。発生初期にNotchシグナルの減少が神経細胞分化を促進させることが考えられるが、αSynとtauどのように微小管動態とNotchシグナル伝達に関わるかは不明である。この分子機構を明らかにするために、神経発生初期における神経幹細胞の発現遺伝子をプロファイリングする。その結果をもとに、αSynとtauがどのような分子機構で脳の発生初期のNotchシグナル伝達と微小管ネットワークの制御に関わるかを解明する。
理由:実験予定の変更が発生したため、次年度への使用額が生じた。計画:神経発生初期における神経幹細胞の発現遺伝子プロファイリング結果をもとに、αSynとtauの機能解析に使用する。
すべて 2022
すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 2件、 オープンアクセス 2件)
Nature Communications
巻: 13(1):6880
10.1038/s41467-022-34555-4.
The Journal Neuroscience
巻: 42(37) ページ: 7031-7046
10.1523/JNEUROSCI.0396-22.2022.