研究課題/領域番号 |
21K06826
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研究機関 | 順天堂大学 |
研究代表者 |
佐伯 和子 順天堂大学, 医学部, 准教授 (00553273)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 赤血球 / 貧血 / 膜脂質 / 高度不飽和脂肪酸 |
研究実績の概要 |
生体機能に必要な高度不飽和脂肪酸(Highly unsaturated fatty acids: HUFA)は、食事から摂取されるほか、必須脂肪酸から不飽和化酵素と伸長酵素の働きにより生体内で生合成される。 これまでに、不飽和化酵素欠損マウスにHUFA欠乏食を摂取させることでHUFA欠乏マウスを樹立したところ、末梢血中の赤血球数およびヘモグロビン値が低下するとともに、脾臓細胞中に髄外造血と考えられる幼若赤血球の増加が観察された。発見当初、赤血球膜リン脂質の脂肪酸の不飽和度が低下することで膜の柔軟性が低下し、溶血性貧血が生じているのではないかと考えたが、in vitroおよびin vivoの実験から赤血球の膜の変形能や溶血性に異常がないことが明らかとなった。 そこで令和4年度、赤血球と赤血球以外の細胞のどちらでHUFAが欠乏することが貧血を引き起こしているのかを明らかにするために、赤血球の移入実験を行った。野性型マウスに野性型赤血球およびHUFA欠乏赤血球を移入して赤血球のクリアランススピードを比較したところ、両者に差は認められなかったが、野性型赤血球を野性型マウスおよびHUFA欠乏マウスに移入すると、HUFA欠乏マウスに移入した赤血球では明らかにクリアランススピードが亢進していた。このことは、赤血球以外のHUFAの欠乏が赤血球の寿命を短くし、貧血を引き起こしていることを示唆している。赤血球のクリアランスは主に赤脾髄のマクロファージが担っていることから、HUFA欠乏がマクロファージの分化・増殖・機能(貪食能など)にどの様な影響を与えるか、現在解析を進めているところである。 また、HUFAにはアラキドン酸やエイコサペンタエン酸(EPA)やドコサヘキサエン酸(DHA)などが含まれるが、どの脂肪酸が貧血を防ぐのに必須なのか、脂肪酸レスキューの実験を行うことで明らかにしていく予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
これまでに、HUFA欠乏マウスでは貧血の症状を呈することを明らかにしている。生体内および試験管内での実験結果から、赤血球の膜リン脂質のHUFA欠乏では赤血球の膜の変形能や溶血性に異常を生じさせないことが明らかとなっており、赤血球以外の細胞におけるHUFA欠乏が赤血球を短命化させていることが示された。現在、赤脾髄マクロファージのHUFA欠乏が赤血球クリアランス亢進を引き起こしている可能性を考えて実験を行っており、予定していた実験計画はおおむね順調に進んでいると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
HUFA欠乏により赤脾髄マクロファージの数や機能(貪食能など)が亢進しないか明らかにする。また、HUFA欠乏により骨髄中での単球(マクロファージ)分化や機能がどの様な影響を受けるかを明らかにする予定である。さらに、これらの表現型が、HUFAのうちのどの脂肪酸が欠乏することで生じているか、脂肪酸レスキューの実験を行うことで明らかにする。
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次年度使用額が生じた理由 |
脂肪酸レスキューの実験は、各種脂肪酸を添加した餌を作製することで行う予定であるが、脂肪酸のなかでもHUFAは非常に高価であるため、今年度と来年度の費用を合算して餌の作製費用にあてる予定である。
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