研究課題
私達は、癌細胞膜の酸性スフィンゴ糖脂質が、シグナル分子の細胞膜ミクロドメイン(脂質ラフト)への局在を制御してシグナルの活性化と悪性形質の増強に働くことを明らかにしてきた。近年、私達は、エクソソームとよばれる細胞外分泌小胞(EV)の構成脂質には脂質ラフト成分が多く含まれることを明らかにした。本研究では、癌関連酸性スフィンゴ糖脂質を含有するEVの構成分子の特性と癌微小環境における役割を明らかにする。そのために、各種の酸性糖脂質糖鎖を発現するEVの構成分子を比較検討した。具体的には、酸性糖脂質のGM3のみを発現するヒトメラノーマ細胞株SK-MEL-28-N1細胞に各種の糖鎖合成酵素遺伝子を導入して作製した糖鎖改変細胞(コントロール(GM3(+))細胞、GD3(+)細胞、GD2(+)細胞、GM2(+)細胞、GM1(+)細胞)を用い、その細胞培養上清から超遠心法によりEVを回収した。これらのEVについて、Tim4-beadsを用いたフローサイトメトリーにより糖脂質を解析した結果、細胞と同じ糖脂質がEVでも強く発現していた。EVの分泌量をタンパク量で比較検討した結果、各EVで差異は認められなかった。一方、癌関連糖鎖であるGD3またはGD2を発現するEVにおいては、EVマーカー分子であるCD63, TSG101, 及びAlix の強い発現が認められた。CD9及びCD81については、各EVで同程度の発現であった。Nano Sightによる粒子径測定の結果、いずれのEVも約100nmであった。上記の各種EVマーカー分子の脂質ラフト局在を解析した結果、各分子のラフト局在とEVにおける発現レベルは相関しなかった。EVの生物活性については、GD2発現EVをコントロール細胞に添加した結果、細胞の増殖性と接着性の亢進が認められた。現在、そのメカニズムについて解析中である。
2: おおむね順調に進展している
糖鎖改変細胞(コントロール(GM3(+))細胞、GD3(+)細胞、GD2(+)細胞、GM2(+)細胞、GM1(+)細胞)の細胞培養上清から、超遠心法により安定して細胞外分泌小胞(EV)が回収、単離できた。Tim4-beadsを用いたフローサイトメトリーによるEV膜上のGD3, GD2, GM2, 及びGM1発現を解析し、糖鎖改変細胞由来EVには細胞に発現している糖脂質と同じ糖脂質が強く発現することを明らかにした。Nano Sightによる粒子径の測定では、これらのEVの粒子径は約100nmであり、エクソソームとよばれる細胞外分泌小胞の粒子径と同等であった。また、癌関連糖鎖であるGD3またはGD2を発現するEVにおいては、EVマーカー分子であるCD63, TSG101, 及びAlix の強い発現が認められた。CD9及びCD81については、各EVで同程度の発現であった。各種EVマーカー分子の脂質ラフト局在を解析した結果、各分子のラフト局在とEVにおける発現レベルは相関しなかった。EVの生物活性については、GD2発現EVをコントロール細胞に添加した結果、細胞の増殖性と接着性の亢進が認められた。以上のことより、研究はおおむね順調に進展している。
1. 細胞外分泌小胞(EV)の組成(脂質・糖脂質、タンパク質)の解析:1)癌関連酸性糖脂質であるGD3またはGD2発現EVではCD63, TSG101 及び Alixが強く発現している。一方、リン酸化SrcがEVの形成や含有分子に関与するという報告がある。そこで、GD3またはGD2発現細胞、及びEVについてリン酸化Srcを検出し、EVへの影響を検討する。2)EVのタンパク質組成のプロテオミクス解析を行い、細胞接着及び増殖に関与する分子群を比較検討する。3)メラノサイト由来EVとメラノーマ細胞由来EVとの間で構成分子の異同について比較検討する。2. 細胞外分泌小胞(EV)の標的細胞に対する機能解析:1)各種の糖脂質糖鎖を発現するEVを細胞に添加し、FAK, p130Cas, Paxillinなどの接着関連分子のリン酸化パターンを比較検討する。2)GD2発現EV膜上のインテグリンの関与を検討するために、RGDなどのインテグリン阻害剤や抗インテグリン抗体をEVに反応させた後、EVを細胞に添加して細胞の接着・増殖への影響を検討する。3)GD2発現EV膜上のGD2の関与を検討するために、EVに抗GD2抗体を反応させた後、EVを細胞に添加して細胞の接着・増殖への影響を検討する。4)GD3発現EVとNK細胞上のSiglec-7との相互作用及び、GD3発現EVによるNK細胞内のITIMの活性化と抑制シグナルによる細胞傷害活性の抑制を検討する。3. 種々の糖脂質糖鎖を有する細胞外分泌小胞(EV)の細胞への取り込みと動態の比較検討 :1)各種の糖脂質発現細胞からEVを調製し、EV膜蛍光染色キットで標識後、各細胞への取り込みと細胞内局在を比較検討する。2)蛍光標識した各糖鎖発現EVをマウスに投与し、体内分布(肺、肝臓、骨、脳等)を比較検討する。
(理由)2022年度は、比較的実験が順調に進み、消耗品を効率よく使用することができた。一方で、新型コロナウィルスの影響がまだ残り、流通の遅れや品不足により購入が困難な実験器具・試薬や消耗品などがあった。その結果、消耗品の支払いの遅れや、納入の遅れが生じた。(使用計画)(1)各種の細胞および細胞外小胞(EV)を解析するために、細胞培養試薬、各種抗体、生化学試薬、分子生物学試薬などを購入する。(2)EVのプロテオミクス解析のための試薬および受託費用に使用する。(3)癌関連酸性糖脂質を発現するEVと細胞との相互作用を解析するために、各種の試薬および抗体を購入する。(4)実験補助のための人件費を支払う。
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