研究課題/領域番号 |
21K06837
|
研究機関 | 奈良先端科学技術大学院大学 |
研究代表者 |
伊東 広 奈良先端科学技術大学院大学, 先端科学技術研究科, 教授 (10183005)
|
研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
|
キーワード | 神経炎症 / アストロサイト / 一次繊毛 |
研究実績の概要 |
老化やアルツハイマー病において脳内で慢性的な神経炎症がおこり、神経回路網の障害により認知機能の低下が起こることが示唆されている。これまで神経回路網の構築や維持にポジティブに働くと思われていたアストロサイトが神経炎症では障害性アストロサイトへと変化し、逆に神経障害を導く重要なプレイヤーとして働くことが近年見出された。本研究では細胞のアンテナとして働く一次繊毛が、神経炎症時のアストロサイトにおいて構造的また機能的に変化するかどうか検証し、さらにその分子基盤を明らかにし、アストロサイトの一次繊毛と疾患との関係を明らかにすることを目指している。 初代神経培養細胞を用いたin vitro実験、マウスを用いたin vivo実験、そして網羅的なトランスクリプトームおよびプロテオーム解析の多方面からのアプローチを開始した。その結果、グリア細胞の培養系に細菌由来のリポポリサッカライド(LPS)を添加すると障害性アストロサイトのマーカータンパク質であるC3の発現が顕著に増加するとともに一次繊毛の長さが長くなることを見出した。グリア細胞よりアストロサイトのみを単離培養した際には炎症性サイトカイン刺激により同様の現象が観察された。予備的なsiRNAを用いた実験において、グリア細胞に一次繊毛形成に必須のIFT88をノックダウンするsiRNAを導入するとサイトカイン刺激に伴うC3発現の抑制が認められた。またマウスにLPSを投与した後の脳切片でアストロサイトのマーカーであるGFAPおよびC3の発現上昇が観察された。一方、神経炎症時のアストロサイトの遺伝子発現およびタンパク質発現の解析を進めるために遺伝子発現データの解析とプロテオームを行うための遺伝子改変マウスの作成を行った。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
アストロサイト細胞を用いたin vitro実験系において障害性アストロサイトへの分化において一次繊毛の長さが伸長することを見出すとともに、一次繊毛が障害性アストロサイト産生において重要であることを示す予備的な結果が得られた。マウスを用いたin vivo実験においてもLPS投与で障害性アストロサイトの増加が認めらる実験条件を確立することに成功した。
|
今後の研究の推進方策 |
in vitro系で障害性アストロサイトへの分化誘導の分子メカニズムを調べる為に、どのようなシグナル伝達系が寄与するか、特に細胞外および細胞内の因子の特定を進める。またin vivoにおいては認知機能を調べるための新規物体認識テストを確立し、LPS処理により認知機構が変化することを検証する。さらにアストロサイト特異的に一次繊毛を薬剤により消失するマウスを樹立し、細胞生物学的解析と行動試験を行うことを目指す。
|