研究課題
老化やアルツハイマー病において脳内で慢性的な神経炎症がおこり、神経回路網の障害により認知機能の低下が起こると考えられている。これまで神経回路網の構築や維持にポジティブに働くと思われていたアストロサイトが神経炎症時では障害性アストロサイトへと変化し、逆に神経障害を導く重要なプレイヤーとして働くことが近年見出された。本研究では細胞のアンテナとして働く一次繊毛が、神経炎症に伴いアストロサイトにおいて構造的また機能的に変化するかどうか検証し、さらにその分子基盤を明らかにし、アストロサイトの一次繊毛と疾患との関係を明らかにすることを目的とした。初代神経培養細胞を用いたin vitro実験、マウスを用いたin vivo実験を行った。その結果、グリア細胞の培養系に細菌由来のリポポリサッカライド(LPS)を添加すると障害性アストロサイトのマーカータンパク質であるC3の発現が顕著に増加するとともに一次繊毛の長さが長くなることを見出した。薬剤誘導でアストロサイトの一次繊毛の機能を減弱させる遺伝子改変(cKO)マウスを作成し、LPS投与時の脳内のアストロサイトと神経細胞死を観察した。コントロールマウスではLPS投与で細胞障害性アストロサイトの増加と一次繊毛の伸長が認められたのに対して、cKOマウスではLPS投与での障害性アストロサイトの増加と脳内の神経細胞死がともに低下していた。さらに新規物体認識テストを行ったところ、cKOマウスの認識能はコントロールマウスの認識能より高いことが観察された。これらの結果から、アストロサイトの一次繊毛が細胞炎症時の障害性アストロサイトへの分化に重要であり脳機能の低下にも関連することが示唆された。
すべて 2023
すべて 雑誌論文 (5件) (うち国際共著 3件、 査読あり 4件、 オープンアクセス 4件)
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