研究課題/領域番号 |
21K06840
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研究機関 | 京都府立医科大学 |
研究代表者 |
徳田 雄市 京都府立医科大学, 医学(系)研究科(研究院), 助教 (40833661)
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研究分担者 |
田代 啓 京都府立医科大学, 医学(系)研究科(研究院), 教授 (10263097)
中野 正和 京都府立医科大学, 医学(系)研究科(研究院), 准教授 (70381944)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 角膜 / フックス角膜内皮変性症 / 次世代シーケンサー / 遺伝的要因 / マルチオミクス |
研究実績の概要 |
眼球表面の黒目と呼ばれる部位にある「角膜」は、外界から眼球内部の保護と光を通すレンズの役割を果たしており、健康な生活を送るために重要な視覚組織である。そのため、角膜疾患の作用機序解明と治療法確立は患者のQOL向上に大いに寄与するが、一方で不明な点が残る変性疾患も多く、中でも「フックス角膜内皮変性症(FECD)」は未だに有効な治療法が角膜移植のみである。 先行研究より、FECDには有病率や遺伝的リスク要因等の違いから人種差があると考えられ、日本人の病態解明と新規治療法確立を困難にしている。研究代表者らは、これまでにDNAアレイを用いた日本人FECD症例に関するゲノム解析により、既知の白人集団の研究結果とは異なる統計的に有意な疾患関連候補ゲノム領域を新たに複数得た。そこで本研究は、それらの結果を精査して疾患関連部位を特定し、FECD発症の背景にある遺伝学的人種差と分子生物学的機序解明へのマルチオミクス情報基盤の構築を目的とする。 本年度は、初年度に引き続き本学眼科と共同で各種症例情報の見直しと新規FECD症例の確保を進めた。また、本研究の目的である情報基盤構築の主要素の1つであり、次世代シーケンサー(NGS)により取得済の角膜内皮トランスクリプトームデータについて、研究代表者らが論文発表済の白人正常細胞由来のものに加え、新たに白人FECD患者細胞由来のデータと比較解析を行った。その結果、FECD特異的な網羅的遺伝子発現プロファイルの構築に成功し、この成果論文をプレプリントサーバー「research square」に公開した上で、現在正式な論文誌に投稿、査読中である。 一方、研究代表者らは、本研究にも利用可能な別の研究プロジェクトでの健常者ゲノムデータ取得及び解析にも従事した。これにより、当初の想定より疾患関連候補ゲノム領域解析への精度向上が期待できる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究の計画の1つは、過去に実施したDNAアレイによるFECD症例に関するゲノムワイド関連解析(GWAS)の情報を検体追加等により更新した再解析を行い、その結果厳選された疾患関連候補ゲノム領域をNGSにより精査することを要点としている。このうちGWASの再解析作業に関しては、初年度は結果精度向上を優先し、使用するゲノムコホート情報の見直しを実施した事で行えなかった。一方本年度に関しては、当初予定通りGWAS再解析を進めていたが、年度内に別の研究プロジェクトにて、新たに本研究に利用可能な健常者のゲノム情報入手が可能となった。そこで研究代表者らは、さらなる解析の改善を優先すべく、この追加検体情報確保のための実験とデータ取得を進めた結果、年度内にGWAS再解析を終える事が出来ず、また、当初予定していたNGSによるデータ取得を年度内に終える事も出来なかった。加えて、年度後半に解析に使用しているサーバーの1台に不具合が生じた事も、予定を遅らせる原因となった。 その一方で、既に取得済のNGSによる角膜内皮細胞のトランスクリプトームデータの網羅的な遺伝子発現情報に関しては、FECDと健常者との比較解析に関する研究結果をまとめ、年度内に論文を投稿するに至った。これは、本研究計画の目的であるマルチオミクスには必要なもう1つの要点が順調に進んだことを意味しており、その背景には前述の理由でGWASの更新作業が遅れる可能性が生じた段階で、こちらの研究作業をある程度優先したことも要因となっている。 従って、本研究計画は精度向上のために時間を費やしている部分と、順調に成果を出しつつある部分に進捗の差が生じており、全体の進捗状況を勘案して区分を「(3)やや遅れている。(Slightly Delayed)」とした。
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今後の研究の推進方策 |
本研究の最終的な目的であるマルチオミクス解析に向けた研究基盤の構築について、NGSによる角膜内皮トランスクリプトームデータを用いたFECD特異的な遺伝子発現情報に関する研究は概ね達成出来た。このため、最終年度はGWAS再解析及び次世代シーケンサーによるゲノム上の疾患関連部位特定を中心に邁進する。既にGWAS再解析に必要な環境は整っているため、速やかに解析作業を進めて早期にNGSによるゲノムデータの取得を目指す。前述のトランスクリプトームデータ解析の際に、サーバー等のNGSデータ解析体制は万全に整っているため、解析にかかる時間は短縮されると予想出来る。従って、年度内に解析済角膜内皮の遺伝子発現データと、新たに取得し特定するゲノム上の疾患関連候補部位との関連性を見出し、FECDの病因解明に向けたマルチオミクス研究の土台作りは十分に可能であると考える。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初年度内に実施予定であった、FECDの疾患関連候補ゲノム領域を精査するためのNGSライブラリ作製と、それを用いた症例のゲノムDNAサンプルに対するNGSシーケンシングの両方が、最終年度に延期することとなった。後者の実施は前者の完了が必須であり、また前者もDNAアレイデータを用いたGWASの再解析の結果を利用する予定であった。しかし本年度は、そのGWASの再解析において結果の改善が期待される検体データの追加が、本研究とは別のプロジェクトで取得する事が急遽決まった。これに加え、本研究のもう一つの柱である角膜内皮のトランスクリプトーム解析の進捗も優先したことで、GWAS再解析に遅れが生じてしまった。以上の理由で、予算の大部分を占めるNGSに関する工程を最終年度で実施することになり、それに伴って次年度使用額が生じることとなった。ただし、これはあくまで研究計画内の実験の実施タイミングが年度を跨いだ時期に遅れただけであり、予算の使用目的及びその使用額自体は当初の予定からはほぼ変更が無い。従って使用計画自体も、当初の予定通りNGSのライブラリ作製とシーケンシングに使用する予定である。 なお、これらの研究過程において、データの解析に使用していたサーバーに不具合が生じたために、その修理に必要な代金は本年度の予算から計上している。
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