研究課題/領域番号 |
21K06841
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研究機関 | 奈良県立医科大学 |
研究代表者 |
山内 晶世 奈良県立医科大学, 医学部, 助教 (70361110)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | インスリン / 翻訳制御 |
研究実績の概要 |
インスリンは膵臓のβ細胞から分泌される、血糖値(血液中のグルコース濃度)を調節するホルモンである。β細胞はグルコース濃度の上昇に応答してインスリンを分泌するとともに、インスリンの生合成を増加させ、分泌によって減少したインスリンを補充する。グルコースによるインスリン生合成の増加は、インスリンmRNAからタンパク質を合成する翻訳の増加に依存しているが、その分子機構は不明である。本研究の目的は、インスリンのグルコースによる翻訳制御に必要な遺伝子領域を明らかにすることである。 本研究では、β細胞におけるインスリンのグルコースによる翻訳制御に重要であると考えられているインスリン遺伝子の非翻訳領域 (UTR) を改変し、インスリン生合成に与える影響を評価する。これまでヒトのβ細胞の培養細胞ではグルコース応答性インスリン生合成は観測されていないため、マウスβ細胞株であるMIN6細胞を用いることにした。マウスにはインスリン遺伝子が2つ (Ins1とIns2) 存在する。両遺伝子のUTRの配列には、相同性が高い領域もあるが、異なる領域もあるので、改変するUTR領域を選択するには、両遺伝子のグルコース応答性が同じかどうかを明らかにする必要がある。それぞれのmRNAの翻訳のグルコース依存性を評価するためには、もう片方のインスリン遺伝子を欠損させたMIN6細胞を用いる必要がある。そこで、Ins1欠損MIN6細胞およびIns2欠損MIN6細胞をCRISPR/Cas9によるゲノム編集を用いて作製しようとしたが、昨年度は成功せず、ゲノム編集方法を変更して作製をやり直した。その結果、Ins1ヘテロ欠損MIN6細胞およびIns2ヘテロ欠損MIN6細胞を得ることができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
マウスMIN6細胞の2つのインスリン遺伝子それぞれについてグルコース応答性を評価する必要があるため、Ins1欠損MIN6細胞およびIns2欠損MIN6細胞の作製を行なっているが、Ins1ヘテロ欠損MIN6細胞およびIns2ヘテロ欠損MIN6細胞を得たところであり、今後、これらのヘテロ欠損細胞にもう一度ゲノム編集をしてホモ欠損細胞 (Ins1欠損MIN6細胞およびIns2欠損MIN6細胞) を作製する必要がある。Ins1欠損MIN6細胞およびIns2欠損MIN6細胞のインスリン生合成のグルコース依存性の測定に至っておらず、実施計画より遅れている。
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今後の研究の推進方策 |
Ins1ヘテロ欠損MIN6細胞およびIns2ヘテロ欠損MIN6細胞にゲノム編集を繰り返し、Ins1欠損MIN6細胞およびIns2欠損MIN6細胞を作製する。それぞれの細胞について、野生型のMIN6細胞で最適化した培養条件やグルコース刺激条件において、mRNA量の変化はないことを確認したあと、インスリン生合成を測定する。 どちらの細胞でもグルコースによってインスリン生合成が増加したら、両遺伝子のUTRで配列が共通する領域をゲノム編集により改変する。Ins2のUTRを改変したIns1欠損MIN6細胞およびIns1のUTRを改変したIns2欠損MIN6細胞の、インスリン生合成のグルコース応答性を測定して、改変した領域の重要性を評価する。 片方の細胞にしかグルコース応答性が見られなかった場合は、その細胞がもつインスリン遺伝子に特有のUTR領域を改変した細胞を作製し、インスリン生合成のグルコース応答性を測定して改変した領域の重要性を評価する。これにより、インスリン生合成のグルコースによる制御に必要なインスリン遺伝子の領域を明らかにする。
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次年度使用額が生じた理由 |
Ins1欠損MIN6細胞およびIns2欠損MIN6細胞のインスリン生合成測定に至らず、ラジオアイソトープ (RI) 試薬やインスリン検出用試薬などを購入しなかったため、次年度使用額が生じた。 次年度使用額および当該年度分の助成金は、Ins1欠損MIN6細胞およびIns2欠損MIN6細胞のインスリン生合成測定のためのRI試薬・インスリン検出用試薬の購入費、UTR改変MIN6細胞の作製およびそれらの細胞のインスリン生合成測定に必要な細胞培養用試薬・分子生物学用試薬・RI試薬・インスリン検出用試薬・器具などの購入費、研究成果を発表するための旅費および論文投稿費として使用する予定である。
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