研究実績の概要 |
近年の研究により、癌細胞の増殖・転移には周辺の間質細胞との相互作用が重要である事が明らかになってきた。特に、非常に予後不良な癌として知られる膵癌では、癌細胞と間質細胞との相互作用が、癌細胞の転移や浸潤過程と密接に関係していることが知られている。本研究で注目するthymosinβ4(Tβ4)は、癌悪性化マーカーとして良く知られる遺伝子であり、がん組織において間質細胞が産生するTβ4が、癌細胞の増殖や転移に大きな影響を与えている可能性が示唆されている。そこで本研究では、Tβ4遺伝子改変マウスと膵癌モデルマウスを用いて、膵癌組織の微小環境におけるTβ4の役割を明らかにするとともに、Tβ4を標的とした新たな癌治療法の開発を目指している。2021年度は、Tβ4遺伝子改変マウスと膵癌モデルマウスであるKPCマウスを交配することにより、Tβ4遺伝子改変マウスにおいて人為的に膵癌発症を誘導可能なTβ4-KPCマウスの作成を行った。KPCマウスでは、p53とKras遺伝子の改変に加え、これらの変異遺伝子の発現をタモキシフェン投与により制御するためにCre-ERT2遺伝子が導入されている。Kras遺伝子の変異はホモ接合体では致死であるため、ヘテロで維持しなければならない。さらに、Tβ4遺伝子の変異もメスがホモ接合体となることにより仔マウスの出産数、生存率が著しく低下するため、ヘテロ接合体での維持が望ましい。このため、p53, Kras, Cre-ERT2, Tβ4の4重の変異を持つ個体を実験可能な頭数揃えるのはかなり困難である。現在、p53, Cre-ERT2の変異をホモで持ち、Kras, Tβ4の変異をヘテロで持つ個体が複数得られているので、これらを交配することで目的の4重変異体を作成し、今後は実際に膵癌の発症や転移に与える影響を観察する予定である。
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