本研究は、生殖細胞が減数分裂を開始する際の分子メカニズムの解明を目的とした。MAX遺伝子に着目した理由は、ES細胞においてMaxノックアウトにより減数分裂関連遺伝子の発現上昇と減数分裂様の細胞が出現したという過去の知見によるものである。生殖細胞でのMAXの機能を明らかにするため、本研究ではMAXを含むPRC1.6複合体に焦点を当てた。 研究の結果、MAX遺伝子の生殖細胞特異的ノックアウトにより、雄雌ともに性分化前の始原生殖細胞で減数分裂が惹起されることを見出した。さらに、減数分裂開始に先立ちMAXタンパク質量が顕著に低下することを明らかにした。一方で、MAX発現低下のみでは減数分裂の開始には不十分であり、MYC/MAXとMGA/MAX(PRC1.6)の両複合体の機能低下が必要であるという仮説を立てた。 この仮説を検証するため、研究期間全体を通じてMYC/MAXとMGA/MAX(PRC1.6)の両複合体による減数分裂開始の制御メカニズムの解明を進めた。特にMAXの発現制御に関わるMAX上流エンハンサーゲノム領域(MUR)を同定し、その欠失マウスを作製・解析することで、MAX発現低下と減数分裂開始との関連性を明らかにした。しかし、MUR欠失のみではMAX発現は完全には抑制されず、減数分裂関連遺伝子の発現には大きな影響は与えなかった。このことから、減数分裂の開始には、MAX低下を誘導する未知の機構が必要であると考えられた。 本研究の成果は、生殖細胞が体細胞分裂から減数分裂へと移行する際の分子基盤の理解に大きく貢献するものである。MAXを介した制御機構の解明は、生殖細胞の運命決定や配偶子形成の基礎的理解につながるだけでなく、不妊症などの生殖関連疾患の原因解明にも寄与すると期待される。今後は、MYC/MAXの機能抑制メカニズムの解明を進めるとともに、その破綻による病態の解明を目指す。
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