研究課題/領域番号 |
21K06850
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研究機関 | 山形大学 |
研究代表者 |
藤井 順逸 山形大学, 大学院医学系研究科, 教授 (00222258)
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研究分担者 |
本間 拓二郎 山形大学, 大学院医学系研究科, 助教 (70743566)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | フェロトーシス / グルタチオン / 細胞周期 / メチオニン / 脂質過酸化 |
研究実績の概要 |
・グルタチオンの主要な構成アミノ酸であるシステインが不足すると、鉄依存性の細胞壊死・フェロトーシスが誘導される。悪性癌細胞はフェロトーシスに耐性となっていることから、フェロトーシスの機構を知ることでこうした癌の新たな治療法の開発に結び付くことが期待される。以前我々は、細胞培養培地のシステインを欠くだけでフェロトーシスが誘導されるにも関わらず、システインの合成材料となるメチオニンを同時に欠くと、むしろフェロトーシスが抑制されることを見出していた。一方、メチオニンの代謝で生じるS-アデノシルメチオニン(SAM)が欠乏すると各種メチル化反応が低下するが、細胞周期のDNA複製過程で起こるシトシンメチル化が阻害されることで、細胞周期が停止する。 ・本研究では、メチオニン欠乏によりSAMを介したメチル化反応が低下して細胞周期が停止する結果、フェロトーシスが抑制されることを検証する。さらにフェロトーシスの実行には活性酸素が関わるため、細胞周期に依存して活性酸素が生成し、それがフェロトーシス誘導に働く分子機構を明らかにする。 ・ヒト子宮頸癌由来Hela細胞をメチオニン欠損培地で培養したところ、SAMをはじめとするメチオニン代謝産物が減少し、システイン欠乏によって誘導されるフェロトーシスがむしろ抑制された。この時、システイン欠乏で増加する脂質過酸化物が、メチオニンを同時に欠くことで増加が抑えられ、活性酸素の生成も抑制されたことが分かった。 ・システインとメチオニンを欠く培地にSAMを添加すると、シトシンメチル化が起こり細胞周期の進行とともに脂質過酸化物が増加して、フェロトーシスが誘導された。しかし、SAMからメチル基が転移した後のS-アデノシルホモシステインではこのような作用を認めなかったことから、SAMを介した細胞周期の進行が脂質過酸化物の生成に関係することが分かった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
・研究は順調に進んでいるため、2年目に実施を予定していた実験の一部についても初年度に着手し、新たな知見が得られた。そのため、2年目の経費の一部を前倒し請求して研究をさらに進めた。 ・これまでに予定していた実験のおよそ半分以上を遂行でき、得られたデータは細胞周期の進行とフェロトーシスが密接に関連することを示しており、分子機構に関する知見も得られた。また、細胞周期の進行に伴い、特定の時期にフェロトーシスの原因となる過酸化脂質が増加することが分かり、細胞周期に連動して生じる活性酸素がフェロトーシス刺激となることが明らかになった。このように十分なデータが得られたことから、これまでに得られた成果を論文にまとめて投稿し、現在改訂を進めている。 ・以上のように順調に研究が進んでいることから、メラノーマ細胞と遺伝子改変マウスを用いた検討を当初の予定に追加して行い、得られた知見の検証を予定している。
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今後の研究の推進方策 |
・当初計画していた以上の速さで研究が進み、成果が得られている。そのため予定していた実験に加えて、培養メラノーマ細胞と遺伝子改変マウスを用いた検討を行うことで、得られた知見を動物個体で検証し、研究成果の実用化への道を開きたい。 ・これまでの研究から、細胞周期に依存して生成する活性酸素が原因となってフェロトーシスが起こることが示唆されたが、メラノーマ細胞は細胞分裂が活発な条件下でも限られた細胞のみにしかフェロトーシスが起こらない。その原因として、通常はグルタチオンペルオキシダーゼ4が過酸化脂質を還元無毒化することでフェロトーシスから免れているが、メラノーマ細胞では他の因子の関与が考えられる。最近報告された、リン脂質のsn-2の部位に付加した脂肪酸を切除するiPLA2がその候補として有力である。そこでiPLA2の阻害、ならびにsiRNAによるノックダウンを行い、フェロトーシス感受性が増すことを確認する。さらに、ラジカル消去剤による細胞死の抑制効果について調べ、フェロトーシス誘導刺激と活性酸素の生成、ならびに細胞死との関連を明らかにする。 ・生体内で起こるフェロトーシスの制御にも細胞周期が実際に関係することを証明するため、遺伝子改変マウスを用いた検討を行う。成獣マウスでは細胞周期が停止した状態にあるため、皮膚の創傷治癒モデルを作製し、増殖過程に移行させた細胞を対象として検討する。本研究では、保有する遺伝子改変マウス(活性酸素消去に働く酵素SOD1を欠損するマウスと、活性酸素消去能の高いビタミンCの合成に障害のあるAKR1A欠損マウス)を使用する。治癒部位では、細胞増殖と細胞死が同時に進行しているため、生成する活性酸素とフェロトーシス誘導との関連を明らかにする。
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