研究課題/領域番号 |
21K06853
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
徳岡 涼美 東京大学, 大学院医学系研究科(医学部), 特任講師 (60511376)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | リピドミクス / 同重体タグ / イオンモビリティー / 質量分析 |
研究実績の概要 |
同重体タグを用いた測定系については、昨年に引き続きさらにターゲット成分を増加させる検討を行った。昨年度までにターゲット成分としていたのは、リン脂質のホスファチジルエタノールアミン(PE)、ホスファチジルセリン(PS)、遊離脂肪酸、脂質メディエータとなる脂肪酸代謝物、およびカルボキシを有する胆汁酸であった。本年はこれまでの測定ターゲットとしていた脂質以外にも、比較的m/zが小さく逆相クロマトグラフィーでの溶出時間が早い成分も検出されることに着目した。これまでの三連四重極型質量分析計を用いたSRM測定では、同時測定するターゲット数に制限が生じる。より多成分の同時測定を可能にする測定法として、三連四重極型質量分析計により各レポーターイオン6種類のプレカーサ―イオンスキャンを同時に行う測定系、及びイオンモビリティー分離を搭載したTOF型質量分析計による測定系の構築と運用について検討した。これらの系は多成分同時測定には適した系であるが、多検体測定後の解析スループットにはデータの解析においての課題が生じる事が確認できた。最終年度にはこの課題の克服に取り組むとともに、同重体タグを用いた多検体同時分析系の実検体分析の運用を進める予定である。 また、昨年度に構築したイオンモビリティー分離を活用した3分間測定では1度に786検体の前処理と測定を行う実験系の運用を開始し、約4000検体の測定を行った。QC(クオリティコントロール)検体数を含めると5000検体以上の測定が実施されたことになる。QC検体を解析しこのような多検体セットの測定においても、約600ピークが安定して測定できることを確認した。この系においても実際に大規模なデータ解析を行うことについての課題が明確になったため実検体分析を進めつつ最適なデータ処理についての課題克服に取り組む。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
大規模検体セットの実験に対応するため、分析前の検体からの脂質抽出を正確かつ迅速に行う方法としては、96ディープウェルや384ウェルプレートを使用しマルチチャネル電動ピペッターなどを用いた詳細なプロトコールを確立し安定して運用することができている。そのように前処理法を確立した後、本年は3分間測定では既に4000以上の実検体について測定を行い、12検体に1回の頻度で測定するQCの測定結果を解析することで、溶出時間、m/z、イオンモビリティを利用して得られるCCS値の安定性を検証し、数千検体を安定して分析できる系であることが確認できた。 同重体タグの運用については、誘導体化方法などについては確立しており、LCMSを用いた測定については3種の測定系が準備できた。これらの測定系のうちのいずれが多成分多検体同時測定に優れているかについて、実検体の測定を進めながらデータの安定性及び測定とデータ処理スループットついて、QC検体を用いて考察していく準備が完了した。
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今後の研究の推進方策 |
脂質抽出については電動マルチチャネルを用いたスループット性の高い手順を今年度には確立したが、さらに同重体タグの誘導体化についても電動マルチチャネルピペットなどの活用により、前処理のスループットを高めることで研究の推進を行う予定である。誘導体化試薬が高価なため微量なピペッティング操作が必要であるが、電動ピペッターのプロトコール作成において吸引吐出速度や液面とチップの位置関係などの設定を慎重に調節しつつ誤差の少ない前処理系の構築を試みる。 多成分多検体のデータ処理について、特にイオンモビリティーと同重体タグを活用した測定データの解析については、データ処理にかかる時間の問題や特定のフラグメントイオンのシグナル値を取り出す方法などに課題が残る。この課題ついては複数のソフトウェアを使用してデータ処理の方法について探索していくことで最適でスループット性も高いデータ処理方法の確立を目指していく。
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